~高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~ 1980年~90年台にかけての日本経済のバブルが膨れ上がって破裂前後の頃の、筆者のドロドロの商社マン生活の実体験をベースに、小説化しました。 今も昔も変わらない営業マンの経験する予想を超えた苦楽物語を、特に若手営業マンに対して捧げる応援メッセージとして書きました。
「競合はドイツのベッケン・バウワー重工と、アメリカのジャック・
 ニコラウスエンジニアリングだと思います」
< えらいたいそうな名前の会社らやな >
「彼ら、欧米系の手口というのは、初めの入札価格を下げるため、
 最低限のものしか見積りしないことが多いんです。
 最終的に必ず必要になることがわかっていても、敢えて入れずに
 提案します。 
 後になって客先がその必要性に気づいても、後の祭り。
 既に契約上の仕様確認は終了して、サインもしてしまっており、
 見積もり範囲を承認してしまっています。
言ってみれば蟻地獄状態と言えるでしょう。
私から言わせれば、お客のことを心底考えてなんかいないんですよ!
 彼らは、そこで、契約などを盾にとって、一斉に足元を見た高い金
 額で追加発注を要求します。  
 そうなると、既に今さら納期的にも他のメーカーに変えるわけにも
 行かない客先にとっては、言いなりで発注せざるを得ず、結果とし
 て、ベラボーに高い買い物になって しまうんです。 
 これが、欧米のプラントビジネスの常套手段なんです」
大日本商事テヘラン店の機械担当藤井が内村の発言を受けてこう
進言した。
「内村さんがおっしゃるようにその2社が応札してきていることは、
 今までのこちら現地での情報収集結果からほぼ間違いはないよう
 です。
 どうでしょうか?  宮田さん。 
 ここは、アロイコには明日対応を回答するとして、いったん今日
 のところは引き下がって、じっくり作戦会議をやって明日に賭け
 ませんか?  
ここはこの商談の正念場だと思います。
 一晩あれば、こちらのエージェントに競合先の情報収集をさせ、
 本当にテンションレベラーが競合相手の提案に入っていないのか
 どうかを探ることも可能かもしれません」
内村もうなずいていた。
 < 確かに、アロイコが我々の価格を下げさせるためにうそを
   言うてる可能性があるわな  >
宮田は、今夜、作戦会議を練ることに決め、モハンマド部長に、明日
の朝の会議の開催をお願いし、その日の会議は終了した。
書類をまとめてホテルに向かうため、やれやれといった感じで会議
場を出ようとしたとき、ムハンマド部長から突然呼び出された。
「大日本商事の人間だけに話がある。 ちょっと時間を割いて欲しい」
< な、なんやねん? 嫌な予感・・・ >
宮田は、そう言われるや、別室に呼ばれて、部屋の真ん中においてあ
る立派な机のひとつの椅子に座るよう案内された。
 < どうもイランでは別室に連れて行かれることが多いな。
   こういう形で呼ばれると、ほんま、ろくなことあらへん
   がな  >
と思いながら、ムハンマド部長と向かい合わせで席についた。
宮田の嫌な予感は的中した。
ムハンマド部長は宮田を高圧的に威嚇するように睨み付けてからおも
むろにこう言い放った。
次号に続く。
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