農業ビジネス花盛りの今、それがビジネスとして「儲かる」にはどうすればいいのかを考えてみる。
■加工度向上と知覚品質
加工度向上と価値の追加は似た関係であるが、一つだけ留意したい点がある。それは、価値には馬路村がゆずを搾ったり、煮たり、乾燥させたりと物理的に加工して価値向上を図ることと、消費者が商品・サービスを購入するにあたって感じる信頼性や雰囲気などの「知覚品質」の両面があることだ。
筆者の知人は新潟県南魚沼郡でコシヒカリを生産している。いわゆる「ブランド米」である。彼はそれを農協に出荷すると同時に、独自で顧客に向けて直販も行っている。そして、独自販売の方が高い価値を追加することができているのである。
独自販売の米は「減農薬・合鴨農法」で生産している。完全無農薬にすると、田植え前の除草の手間がかかりすぎるので、一度だけ農薬を散布するという。それは、直接苗にかけているわけではないため、影響は極めて軽微だという。田植え後は、合鴨に除草させるため、自然有機栽培となる。
価値の構造を考えてみる。中核的価値は「おいしい米が食べられる」である。「南魚沼郡産」というブランドが、「おいしい」という価値を裏書き(endorsement)してくれるのが実体価値である。通常であれば、ここまでで十分な価値であるのだが、彼の活動にはさらに付随機能がある。「減農薬・合鴨農法」がそれだ。しかし、その活動の成果が最終製品としての米にどの程度影響を及ぼしているのか、一般の消費者にはほとんどわからないはずだ。にも関わらず、それを価値と考えるのは、生産者の顔が見えて、その生産に対するこだわりに共感しているからに他ならない。つまり、それは工業的な品質向上ではなく、知覚品質が高まっている状態なのである。
■販路という課題
「より高単価・高付加価値で農産物を売る」という課題は上記の通り、加工度を高める。もしくは、知覚品質も含め価値構造を重層化していくことが一つの解である。そしてそのためには直販・通販がその価値を顧客に伝達しやすいことは、合鴨農法・南魚沼産コシヒカリの事例からもわかる。同様に、前掲の馬路村のゆず加工品も通信販売で大きく販売量を伸ばした。
中間に流通チャネルを通さない直販・通販は「ゼロ段階チャネル」といわれる。量販店で販売する。卸を通じて小売店で販売する。一次卸・二次卸を通じて小売店で販売する。それらは、間に入るチャネルの数によって1段階チャネル~3段階チャネルと呼ばれる。
中間にチャネルが入るほど商品の流通スピードは遅くなり、チャネルマージンが上乗せされ、生産者のメッセージが伝わりにくくなり、顧客の声も届きにくくなる。つまり、物流・商流・情報流の3つの大きな流れがいずれもコントロールしにくくなるのだ。
つまり、チャネルを介した販売を行う場合、「価値構造を重層化」は、その価値を顧客と共有するだけでなく、チャネルも理解しファン化するようなしくみがなければ顧客にその価格に見合った価値が伝わらなくなるのである。
しかし、チャネルを介在させる大きなメリットも存在する。それは、市場のカバレッジが高くなるのである。独自に顧客を開拓するのは容易ではない。一方、チャネルは各々が顧客を有している。チャネルの力を使って、その顧客に販売してもらう方が、より数を捌くには適している。
最終的にはこのチャネルの設計をどのようなバランスの上に成立させるかという点が「より高単価・高付加価値で農産物を売る」課題となるのは否めない。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。