上戸彩がイメージキャラクターを務める「デュラムおばさんのカップパスタ」が発売以来好調な売れ行きを見せているという。その開発の背景を考察してみると、並々ならぬ開発の執念が感じられるのである。
8月19日の日経MJ15面コラム「フーズWho」に「デュラムおばさんのパスタ」開発者インタビューが紹介されている。<「即席麺の分野にパスタを根付かせたい」と意欲を見せる>と語り。開発に際して<既存の生麺を使う商品は、麺の中心にコシが残る「アルデンテ」が実現できず不満を感じていた>という。
つまり、すぐに「自社の即席乾麺に技術でいく!」との意志決定がなされたのではないかと推察できる。
しかし、意志決定してもすぐに実現できるとは限らないのがプロジェクトXだ。
<パスタは、小麦のでんぷん質を高温で「改質」して食べられる状態にする。乾パスタは、この改質を施さないまま乾燥してあるので、沸騰した湯でゆでる必要がある>という。火加減、ゆで加減が命なのである。
そこで、同社の即席乾麺の技術が活きる。
ゆでるのではなく、カップ麺の蒸す技術で改質し乾燥させる。それによって5分という短時間、注いだ熱湯の持つ熱量だけでアルデンテができあがるようにしたのだ。
ほかにもパスタならではの苦労を克服したという。本格派のデュラセム種100%にこだわったが、それはコシが強く固い。ラーメンと異なる蒸し方を工夫した。さらに、パスタには丸麺のスパゲッティー以外に、今回商品化されている平麺のフィットチーネなど、ラーメンと異なる様々な形状がある。乾パスタと同じ高圧押し出し製法を取り入れたという。
既存の即席乾麺の技術をパスタに応用する試行錯誤が3~4年続き、地域限定のテスト販売も成功し、この8月、全国展開が行われた。そこで同社には思いもよらなかったであろう幸運が待っていた。
なぜ、取扱がなくなっているのか理由はわからない。しかし、開発当時、超えなければならないと意識した競合である「スパ王」がコンビニ店頭から姿を消しているのだ。「最近発注画面でも見あたらない」とあるコンビニチェーンの店長は姿を消したスパ王を振返る。
わずかに冷凍のスパ王や、レンジで仕上げるタイプがいくつかのチェーンで確認できるだけであった。
開発の努力を重ねて3~4年。完成した時には、店頭の棚にライバルの姿はなかったというわけだ。そのおかげもあって、各店はいくつものフェイスを提供している。
上市の時期もよかった。夏といえばカップ焼きそば類のフェイスが増える。その中で新発売のカップパスタは珍しく、店としてもついつい、棚を多めに用意したくなるのだろう。
自社の得意技、独自技術を一筋にみがいて、さらにそれに改良を加えて市場の勝機をモノにする。サンヨー食品のプロジェクトX、「デュラムおばさんのカップパスタ」に敬意を表しつつ、その姿に学びたいと思った。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。