自分の肌の細胞を使い医療や美容に役立てる。セルバンクすなわち自己細胞バンクは、高度先進医療のシンボル的な企業だ。細胞ビジネスを立ち上げたセルバンク社の問題意識、今後の展開戦略、細胞バンクが拓く医療の可能性などを探る。
第3回
「銀行での挫折、そしてエンジェルの登場」
■現れたエンジェル
「とりあえず一億円貸してくださいって、お願いに行ったんですよ。近くの銀行に。即座にお引き取りくださいっていわれました」
科学者としての冷静な視点を持ち、ビジネスの本質を掴んだビジネスモデルもしっかりと練り上げられた。あとは金、起業するための資金が必要だ。その資金をなんと北條氏は、すべて銀行からの融資でまかなおうとした。
「相手は僕が医者だと知っていますから会って話ぐらいは聞いてくれる。開業資金なら5000万ぐらい出しますよとは言うものの、細胞培養室なんてわけのわからないものには10万円だって貸せませんと、まるでけんもほろろの扱いですよ」
銀行の対応に勘の鋭い北條氏は、自らのビジネスの可能性と前途の多難さを同時に嗅ぎ取った。可能性とは、これからやろうとしているビジネスには、まだ誰も手を付けていないということ。これまでなかったビジネスだから、相手に理解されないのだ。それだけ前途は多難ということにもなる。
「銀行の方から見れば、細胞培養室なんて訳の分からない設備が事業として成り立つとは、到底思えなかったのでしょう。前例がないからだめの一点張りです。誰かが先にやってるようなことなら、儲からないでしょうと訴えたんですが通じませんでした」
銀行がダメとなれば本来は医者である北條氏にとっては、資金手当の道は閉ざされたも同然。ところが起業を諦めかけた氏の前に一人の天使が舞い降りてきた。
「業界用語でいうエンジェルと呼ばれる存在ですね。何しろその人のおかげで、結局何とか1億円調達できたのですから」
その人とは、大手銀行で取締役まで務めあげた人物で、偶然知り合ったこの方に北條氏は、細胞ビジネスにかける思いの丈を熱く語った。そのビジョンに共鳴していただけたこの方こそがセルバンク社の創業資金の調達に奔走してくれたのだ。
「銀行に一緒について来て、融資の交渉をしてくださいました。その方の口添えがあったからこそ借り入れができたのです」
続けてその方はベンチャーキャピタルにも話を付けてくれた。このときには偶然が北條氏に味方した。細胞保管ビジネスがあるテレビ局の目に留まり、ちょうど番組がオンエアされた直後だったのだ。
「おかげで資金が調達できました。事業計画書こそ見よう見まねで書きましたが、ろくにプレゼンテーションもできなかったし。思い返せば昔からそうなんですけれど、なぜかいろいろな人が助けてくれてうまくいくんですよ。ほんとにこんなに若いうちに運を使い尽くして大丈夫かって心配になるぐらい」
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FMO第26弾【株式会社セルバンク】
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