『機動戦士ガンダム』の監督として知られる富野由悠季氏が7月7日、東京・有楽町の日本外国特派員協会に登場、自らの半生や映画哲学などについての講演と質疑応答を行った。前編では講演の内容を詳しくお伝えする。[堀内彰宏,Business Media 誠]
僕が大学を卒業して、手塚先生の虫プロダクションに入社することができたのは、手塚治虫ファンだったからではありません。ほかに就職する口がなくて、虫プロダクションが拾ってくれたから就職したのです。本当にこれは偶然でした。(日本大学芸術学部)映画学科の学生ですが4年間勉強したとは言えない……、4年間居ただけの学生ですが、一応映画的な仕事に就けるという意味で虫プロダクションで“妥協する”ことができたのです。
そして、虫プロダクションでは驚くべきことを知りました。ディズニーのアニメは“動いている”のに、虫プロダクションのアニメは“動いていない絵を使って二十数分止める”という(映像が動いていないように見える)番組を作っていたことです。
そのようなスタジオでしか働けない自分の能力を情けないと思いながらも、そういう現場を見ていくうちに思ったことが1つあります。止まっている絵、動かない絵であってもそれをテレビモニターで鑑賞する時には、リアルタイム(で動いているように見えること)を要求されるわけです。つまり映像で流れる絵も、基本的には映画を作るのと同じ構造で作りうると理解しました。
宮崎駿は作家であり、僕は作家ではなかった
その次に自分が職業上知ったことがあります。それはテレビシリーズの作品を任せられた時、ストーリーの決定権を得た時です。つまり、「公共の媒体を使って物語を提供するということとはどういうことか」を考えざるをえなくなったのです。
それを考えた時、具体的に出典は思い出せないのですが、児童文学を書くためのハウツーものを読んだ時にあった1行が、僕にとって現在までの信条になりました。「その子にとって大切なことを本気で話してやれば、その時は難しい言葉遣いでも、子どもはいつかその大人の言った言葉を思い出してくれる」という1行でした。つまりアニメのジャンルに関わらず、「子どもに向かって嘘をつくな。作家の全身全霊をかけろ」と僕は理解しました。
その上で、僕は“巨大ロボットもの”というジャンルの専門家としての仕事に進むようになったのですが、その理由はオリジナルストーリーを作ることができるからです。生活費をもらいながら物語を作る訓練を毎週させてもらえるので、巨大ロボットジャンル(のアニメ制作)は大人にとって魅力的な職場になったのです。ですから必ずしもこのジャンルの作品が好きで現在まで来ているわけではありません。
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富野由悠季氏、アニメを語る
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