完全密閉型では世界最大級の野菜工場が、福井県美浜にある。運営するのは京都のベンチャー、株式会社フェアリーエンジェルだ。同社の活躍は政府の目にも留まり、これを機に野菜工場支援策として150億円の補正予算が組まれた。世界の食の未来を考える同社の使命感に迫る。
■日本の強み『モノ作り』を活かす
「生産に関しては今後、横の展開と縦の展開を考えています」
横の展開とは、アイテムを増やすこと。例えば中東地域なら非常に人気の高い苺の生産などが考えられる。
「おもしろいのが縦の展開ですね。つまり高付加価値化を狙っていくわけです」
高い付加価値を認めてもらえるなら、コストの壁をクリアできる。生育環境をパーフェクトにコントロールできる完全密閉型工場ならではの特性は、ほかにも活かせる可能性がある。
「照明をLEDにすれば、光の色ごとに照射時間や強度を調整できますよね。液肥にもいくらでも工夫する余地はある。すでにアイデアレベルでは、興味深い案がいくつも検討されています。そのうち世の中をあっといわせる野菜を発表できるんじゃないでしょうか」
生産プロセスを完璧にコントロールする。これは日本の製造業が何より得意としてきた部分ではないか。この連想を進めて野菜工場を製造業の視点から見れば、どんな未来が開けてくるだろうか。
「日本の製造業は世界ナンバーワンになりました。その過程ではクォリティコントロールのための数々の手法が開発され、限りないカイゼンが行われてきたのです。そうして培われてきた日本のモノ作りのノウハウをすべて野菜工場に注ぎ込みたい」
こう考えれば、日本発の野菜工場を世界に広げて行くことは、もはや夢などといったイメージレベルの話ではなく、極めてリアルなビジネスイシューとして捉えられるのではないだろうか。日本の家電製品や自動車が世界をリードして劇的なコストダウンを成し遂げ、いま世界中の人たちがその恩恵を受けているように、日本発の野菜工場が全世界に福音をもたらす。
そんな時代が来ることさえ予感させるフェアリーエンジェル社の取り組みには、決しておおげさではなく人類の未来がかかっているのだ。
~特集インタビュー
「世界最大規模の野菜工場が示す食の未来」完~
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【Insight's Insight】
『起業の原点は志』
志の極めて明確な企業。
話を聴けば聴くほど、そんなイメージが強くなる。単に工場野菜を作るだけではもちろんなく、作った野菜を売るだけにもとどまらない。
では野菜工場をプラントとして販売展開できればいいのかといえば、それでもまだ完全ではないのだ。何しろ、その志は「世界の食料問題を解決する」ことにあるのだから。
環境問題の解決にはビジネスの力が絶対に必要である。つまり環境関連事業がビジネスとして自立できない限り、環境問題は解決できない。ビジネスとして成立するためには、提供する価値をユーザーに受け入れてもらう必要がある。つまり、価値と引き換えに支払われる対価のバランスが取れていなければならない。
多くの環境ビジネスがつまずきがちなのが、このバリュー/コストバランスを取れないからだ。均衡点を見つけるためにフェアリーエンジェル社は、プラント建設からその運営、さらには製品販売までのバリューチェーン全体のノウハウ蓄積に努めている。
なぜ、そこまで手間がかかり収益化にも時間の必要なビジネスにあえて挑むのか。その理由は明らかだろう。フェアリーエンジェル社は本気なのだ。世界の食料問題を解決し、日本の農業崩壊を食い止めることに。その思いが政府にも伝わり、今回の補助金制度につながった。
起業に何より大切なのは志、そのことを再確認させてくれるのが今回の事例である。
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FMO第25弾【株式会社フェアリーエンジェル】
2009.07.21
2009.07.14
2009.07.07
2009.06.30