世界最大規模の野菜工場が示す食の未来(3)

完全密閉型では世界最大級の野菜工場が、福井県美浜にある。運営するのは京都のベンチャー、株式会社フェアリーエンジェルだ。同社の活躍は政府の目にも留まり、これを機に野菜工場支援策として150億円の補正予算が組まれた。世界の食の未来を考える同社の使命感に迫る。

■コストを下げ、バリューを上げる

「価格が高いのは厳然とした事実です。こればかりはどうしようもない。そもそもの原価構造が普通の野菜とはまったく違いますから」

先祖代々の土地で、おじいさんおばあさんが作っている野菜なら、コストもそれほどかからないだろう。なにしろ土地代ゼロ、光熱費もゼロである。対する野菜工場は、土地代、工場建設費といったイニシャルコストに加えて光熱費や水耕栽培の液肥代、そして人件費といったランニングコストが乗ってくる。

「生産コストは光熱費、人件費、設備投資の減価償却が各3割ずつ、プラス諸経費です。原価レベルでは正直なところ、農家が作る野菜とは勝負になりません。だから我々は付加価値で勝負するしかない。ということはその価値をお客様に認めてもらう必要があります」

同社がレストラン事業を平行して展開している理由がここにある。工場で作られた野菜ときけば、反射的に拒否反応を示す消費者もいるだろう。そこでレストランの出番となる。

「味には絶対の自信がありますから、一度でも食べてもらえれば、美味しさは必ず伝わります。その上で完全無農薬であること、だから安心・安全であることをきちんと説明する。レストランはお客様の生の声をお聞かせいただく場としても機能しています」

実際に食べた顧客の声を反映して、野菜の味はブラッシュアップを重ねてきた。和物の生産に乗り出したのも、ユーザーのリクエストに応えるためだ。評価がほぼ確定した段階で、同社は新たな販路開拓に乗り出した。

「月並みかもしれませんが、まず百貨店さんにお願いに行きました。ダイレクトに売り込みに行っても、バイヤーの方に取り上げてもらえる確率は百分の一が相場です。その狭き門を突破できれば、それこそが本物の証になると考えての挑戦ですね」

百貨店のバイヤーといえばプロの目利きである。プロだからこそ本物の価値を理解できる。売り込みを受けてすぐに地元の百貨店はフェアリーエンジェル社との取引を始めた。極めて商品の回転が速いとされる百貨店だが、同社は取引開始以降ずっと売り場の棚をキープしている。

「地元の次は日本のトップを狙いました。その結果、関東エリアの主要百貨店さんもそのほとんどとお取引いただいています。セールスポイントは『日本一高い野菜』ですね」

通常なら工場野菜は、価格面でもっとも近いところに位置する露地物を競合としてアピールする。しかし同社は戦略的に露地物との比較は一切しなかった。それどころかあえて「日本一高い」思いきった値付けを断行している。背景にあるのは、明確にブルーオーシャンを狙う姿勢だろう。

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