がん手術の経験をもとに、筆者の先輩が闘病記を書いた。きっかけとなったのは、大病院で医師に感じた、“違和感”だったという。それは……?[郷好文,Business Media 誠]
もしも「あなたはがんです」と宣告されるとしたなら、その時にどんな言葉をかけてほしいだろうか。どんな“患者扱い”をされたいだろうか。
医療技術の高度化で、昔ほど致死率が高くなくなったとはいえ、まだまだがんとは“死の宣告”に近いもの。疾患部位を切除するのは外科医の日常の仕事ではあるが、患者にとっては生死を賭ける体験。外科的な“キュア(治療、処置)”だけでなく精神的な“ケア”も欲しいところだ。がんを宣告された私の先輩の体験記『我が闘病』にはそんなつぶやきがたくさんある。
36ページにわたる『我が闘病』
「さっそくだけどさぁ、こういうの書いたんだ」、久しぶりに会った只野呑介氏は、カバンからプリント冊子を取り出した。
只野氏は2008年11月に肝臓がんと宣告され、タイミングよく見つかった心臓血管狭窄のカテーテル手術と合わせて2度、ある大病院で手術を受けた。
「ずいぶん回復が早かったですね」と声をかけると、「まあ、運動していた成果だな」と胸を張る只野氏。「只野呑介」とはもちろんペンネームだが、患者の個人情報を重視する今どきの病院事情にぴったりなのでそれを先輩の名前として使うことにする。『我が闘病』は1万字以上の患者体験小説。「頑張る」「めげない」といった闘病記ではなく、客観性を持った記録でもある。私はページをパラリとめくり、冒頭の一文を黙読した。
この戯れ文は、還暦を数カ月後に控えた男が初体験の大きな手術を受け、そこから回復し、昔からの飲み仲間のもとへと戻っていく過程を記した体験小説である。(『我が闘病』第1章)
病の予兆は運動中に突然訪れた。スポーツ施設でエアロバイク運動をした直後、スーッと眠り込むようにバイクのそばに倒れ込んだのだという。ほんの 5秒くらいのことで後で違和感もなかったが、定期通院する病院で念のため負荷心電図と心臓エコー検査を受けたのだった。すると30分のルーチン検査のはずが、検査が進むにつれ読影する検査技師の顔色が変わり、すぐにかかりつけ医のK医師が呼ばれ、腹部エコーに造影剤CTと合計3時間も検査に費やすこととなった。
K医師は只野氏に所見を伝えると、ある大病院への紹介状を書いた。「K先生は説明がうまいし、パワーポイントでの健康管理プレゼンも上手でね」、顧客応対力で只野氏はK先生をかかりつけ医に指名した経緯があった。ところが大病院は違った。
タンカンスイとミッション
11月上旬、只野氏は紹介状を持参して、大病院の消化器内科のS医師に診てもらった。問診では持参したA病院のCTやエコーは見ずに「ウチでもCT受けて」とだけ言われた。数日後CTを受け、さらにその数日後の再診日のやりとりを『我が闘病』第4章から紹介しよう。
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