完全密閉型では世界最大級の野菜工場が、福井県美浜にある。運営するのは京都のベンチャー、株式会社フェアリーエンジェルだ。同社の活躍は政府の目にも留まり、これを機に野菜工場支援策として150億円の補正予算が組まれた。世界の食の未来を考える同社の使命感に迫る。
「ちょうどその頃日本では、食の安心、安全に対する関心が急速に高まり始めました。引き金となったのはBSE問題や中国の野菜問題ですね。ある意味我々には時代の追い風が吹いていたのかもしれません」
狂牛病問題は、日本人に大きなショックを与えた。牛肉を食べただけで不治の病になる。そんな恐ろしい事態は日本人の誰もが想像すらしなかったはずだ。追い討ちをかけるように、中国産野菜の農薬汚染問題がマスコミを賑わすようになった。
「水と同様、食べ物も安全で当たり前。いかにも日本人らしい平和な感覚はいいのですが、そうのんきなことも言ってられなくなってきたわけです。しかも無農薬栽培でもない限り農薬は使われていますから」
流通過程での農産物の扱いも、決してていねいとは言えないのが現状だ。例えば市場での扱いである。
「野菜市場で野菜がどう扱われているかご覧になったことがありますか。地べたに置かれて野ざらしですよ。もっともこうした状況にあるのは野菜だけじゃなく、魚だって同じです。おかげで食べる前には念入りに洗わないといけない。なんかおかしいと思いませんか」
ではもし農薬を一切使わず、生産段階から食卓に上るまでまったく洗う必要のない野菜を作ればどうなるのか。革命が起こるだろう。
「農業革命といえば大げさ過ぎるかもしれません。ただ我々にはもう一点、強い危機意識があるのです。日本の農業をこのまま放置しておくと、担い手不足により、いずれ必ず農業崩壊にいたる。それだけは何としても防がなければならない」
政府統計によれば、いま日本で、農業だけで生計をたてている世帯はわずか40万世帯にも満たないといわれる。しかも、その所得を時給換算すると、なんとたったの100円台という試算さえある。にもかかわらず労働時間は長く、作業は過酷だ。仮にいま農業を営んでいる人でも、自分の子どもに農家を継げとは決していえないだろう。
「もし農業の担い手が途絶えてしまったら、日本の食料はどうなるのでしょうか」
そこで農業に新たな働き手を呼び寄せる切り札となりうるのが野菜工場だ。工場だから就業時間は9時からきっかり5時までと決まっている。しかも空調、照明ともに行き届いた快適な空間の中で、たくさんの緑豊かな野菜に囲まれて働くとなれば、きっと気分もいいだろう。
「実際、うちの従業員は、工場で仕事をすると癒し効果を感じるとか、ストレス解消になると言ってます」
従来型の農業ではなく、もちろん単純な工場労働でもない。しかも自分たちの労働によって創造される価値は、極めてクォリティの高い食料である。未だかつて存在しなかった意義ある仕事は、新たな働き手を集めるだろう。
次のページ『株式会社フェアリーエンジェル 関連リンク』
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
FMO第25弾【株式会社フェアリーエンジェル】
2009.07.21
2009.07.14
2009.07.07
2009.06.30