「行動ファイナンス」の意味を知っている人はどのくらいいるのだろうか。筆者の森田氏も詳しくは知らなかったが、『行動ファイナンスの実践』(ダイヤモンド社)を読み、「これは儲かる!」と思ったという。その行動ファイナンスとは一体……? [森田徹,Business Media 誠]
非線形加重
人は、比較的起こりえない事象を無視し、比較的確実な事象については過大な加重をするというものである。非常におおざっぱに言えば、99%の確率で10 万円がもらえ、1%の確率で1000万円を失うとき、もらえる額の期待値はマイナス1000円だが、我々は漠然と10万円がもらえるものとして行動するのである。
参照基準点
我々は富の絶対的水準というものを持っているわけではなく(期待効用仮説)、今より損をしたか得をしたかということの方に気を向けるものなのである。だが、
(1)確実に儲かる24万円
(2)100万円が25%の確率で得られ、75%で何も得られない
という2択のケースでは我々はしばしば(1)を選ぶのに
(3)確実に失う75万円
(4)100万円を75%の確率で失い、25%の確率で何も得られない
という2択のケースではおよそ(4)を選んでしまう(期待値の最大化としては(2)を選ぶのが合理的で、(3)(4)は同等の質問となる)。これは我々の利益を確定し損失を回避したがる傾向を如実に表している。
一般に、人は利益と比べて損失を2倍~2.5倍強く感じる傾向にあるという。
以前、日経平均の株式プレミアムを5~6%と仮定して妥当な日経平均の値を非常に簡易的に計算したことがあったが(関連記事)、リスクをボラティリティー(価格変動率)の大きさとしてみる金融工学的にはこれは過大な数字である(経済学者のモデルでは株式プレミアムは1~2%とされるのが普通らしい)。これもプロスペクト理論を使えば説明できるとされ、シュロモ・ベナルツィとリチャード・セイラーの論によれば、投資家が損失を利益の 2.25倍強く感じる(2.25倍の損失回避度)と仮定すれば、7%の株式プレミアムが存在すれば債券と株式に“見込まれる”価値(あくまで感覚的なもの)が同等になるそうだ。
参考書籍で紹介されているのはもっとマニアックで実用的な知識が多いのでこれ以上は触れないが、このようにさまざまな既存の経済学の機能不全を行動ファイナンスは部分的だが非常にうまく説明するのだ。
最も不完全でかつ最も知的な学問
ここまででいくつかの行動ファイナンスを“かじって”はみたが、上記の「市場価格や収益についてのアノマリー」での関連項目にピンときた方は、恐らく賢明な投資家だ。興味があれば、理論のみで実証がない類書は読まずに、繰り返しになるが『行動ファイナンスの実践』を読むことをオススメする。
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
さようならMr.スポック!新しい経済学「行動ファイナンス」とは?
2009.05.14
2009.05.12