2009年4月30日に連邦倒産法第11章(Chapter 11)の適用を申請した、米国ビッグスリーの一角であったクライスラー。しかし、その結末はマイケル・ポーターの理論通りだったともいえるだろう。
■低価格車市場は新興国だけのものなのか?
日本経済新聞の記事によれば、タタは「ナノ」を2010年に欧州に輸出し、その後米国市場にも投入する計画だという。中国の奇瑞汽車や吉利汽車は中近東、東南アジア、ロシアに進出。先進国進出が今後の課題だとしている。記事では先進国への投入は安全や環境基準への適合が大きなハードルになるとしているが、1950年代にトヨタクラウンがフリーウェイ走行に耐えられなかった状況から、80年代までの間に市場を席巻したことを考えれば、余り甘く見ない方がいいのではないだろうか。
日本市場はどうなのだろうか。日本の自動車市場は確実に縮小している。しかし、自動車がなければ生活がままならない地域は多い。低価格車に乗る日本人なんて、余り考えられないように思うが、昨今、低価格志向に消費者心理は大きく変化している。液晶テレビといえば、AQUOS、BRAVIA、VEGAといった一流ブランドが想起されるが、最近、量販店やネットショップでは聞いたこともないようなマイナーブランドの液晶テレビがかなり売れている。安全性が担保されれば、案外と日本でも低価格車に乗る層も出現するかもしれない。
低価格車という特定市場が拡大し、そこで圧倒的な低コスト生産の能力を持ったプレイヤーがコストリーダーに取って代わる。80年代以降の米国市場に似た光景ではないだろうか。
■環境車市場はどうなるのか?
世界の環境車市場では日本車勢、特にトヨタが一歩二歩リードしている現状だが、その市場も安泰ではないかもしれない。早晩、既存の自動車市場は環境車に置き換わる。その時、コストリーダーになれるのはどこなのか。
中国の比亜迪汽車はハイブリッド車を約210万円で発売している。同社の母体は電池メーカーだ。まだまだコスト削減は可能だろう。日経新聞によれば、同社は2011年には欧米に電気自動車を輸出する方針で、「25年には世界でナンバーワンの自動車メーカーになる」と宣言しているという。
今はまだ、脅威と見るのは大げさかもしれない。しかし、舵の切り方を間違えれば、Chapter 11を申請した、今日のクライスラーは、明日の日本車勢の姿となるかもしれない。今後の市場の動きからは目が離せない。
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2009.02.10
2015.01.26
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。