クライスラーの今日、日本車勢の明日?

2009.05.07

経営・マネジメント

クライスラーの今日、日本車勢の明日?

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

2009年4月30日に連邦倒産法第11章(Chapter 11)の適用を申請した、米国ビッグスリーの一角であったクライスラー。しかし、その結末はマイケル・ポーターの理論通りだったともいえるだろう。

■1950年代の米国でのトヨタ
1950年代の日本車勢はどうなっていたか。トヨタに注目して見てみよう。トヨタは50年代初頭のデフレの影響で倒産危機などがあった後、クラウン、コロナ、パブリカという名車を上市。56年にはクラウンによるロンドン~東京間走破という快挙を成し遂げて大いに自信をつけていった時期である。
その勢いで米国進出に挑んだ。1957年のことだ。しかし、結果は惨敗。フリーウェーを高速で長距離走る使われ方には日本車はまだ耐えられず、故障が相次ぐ事態になった。しかし、艱難辛苦の末に市場参入した意味は大きい。低廉な小型車というコスト集中戦略のポジションを徐々に確立していくことになる。

■オイルショックという転機
世界は1973年の第一次、1979年の第二次と二度の石油危機に見舞われた。そのことが日本車に大きな転機を与えた。80年代にかけて小型車の需要が高まり、日本車に注目が集まった。GM、クライスラーも大急ぎで小型化に舵を切り直したものの、製品の品質と生産性の悪さが顕在化した。1960年代から小型車を市場投入していたフォードだけが日本車勢と唯一互角の戦いをし、貿易摩擦にまで発展することになる。

■ポーターの理論で読み解く変化
大型車全盛期から、オイルショックを経て小型車へと市場の需要が大きく変化した。これは、ポーターは各戦略ポジションが抱えるリスクとして指摘している内容に符合する。例えば、コストリーダーが抱えるリスクの一つに、特定セグメントで強いコスト競争力を持った競合が出現し、そのセグメントが急成長することを挙げている。差別化戦略のリスクは、同様に特定セグメントでより著しい差別化を実現する競合が出現し、そのセグメントが急成長することと指摘している。
つまり、環境の変化は米国においてはマイナーな市場であった小型車市場を急成長させ、従来の自動車市場に置き換わった形になったのだ。低価格で高品質という強力な差別化要因を高い生産性で実現できる日本車勢。特にトヨタがコストリーダーのポジションを狙える位置を占めたのだ。
ビッグスリー凋落の原因は様々な角度から多くの人が解説しているが、極めてベーシックなフレームワークでも容易に説明できる結末ではある。

■明日の自動車市場はどうなる?
では、全世界に目を転じた時、これからの自動車市場はどうなっていくのか。日本車勢の栄華は続くのか。ビッグスリーの凋落は前述の通り、何も昨今はじまったわけではないが、昨秋からの世界同時不況は確実に自動車産業に大きなダメージを与えたのは間違いない。
そんな中で気になるのが新興国勢だ。インドのタタモータースが引っ提げてくる「ナノ」は約22万円。中国の奇瑞汽車は「QQ」が約44万円。同社はプラグイン電気自動車も約100万円で発売するという。「低価格車」という特定市場でぐっと存在感を増している。
先進国の市場は完全な成熟化か、日本のように衰退し始めている。しかし、新興国でのモータリゼーションは今まさに火が付いたところだ。その潜在力のすさまじさは想像に難くない。

次のページ■低価格車市場は新興国だけのものなのか?

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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