わずか3年で約100店を新規出店。23区内「どこへでも」配達を実現するためにカクヤスが採った拡大戦略だ。しかし、結果はぼろぼろ。全店の半数以上が赤字となった。崖から転げ落ちかけた同社を救ったのが、Amazon、アスクルに並ぶ『カクヤス・モデル』である。
■縮小市場にガリバー参入
「無料配送に切り替えてからは、さらに業績は順調に伸びました。ところが好事魔多しとはよくいったもの。1998年、とんでもないことが起こるんです」
一つは酒販免許の自由化である。極めて厳格な免許制度によって保護されてきた酒販店の世界が、その根底からひっくり返されることになる。マクロな競争環境がこれまでとはまったく変わってしまうのだ。
「イオンのようなGMS、あるいはセブンイレブンに代表されるCVSが今後間違いなく参入してくる。品揃えと価格でスーパーに勝てるわけがないし、24時間365日の利便性でコンビニに敵うはずがない。どうすりゃいいのって」
さらに追い討ちをかけたのが、マーケット全体の動向だ。頼みの綱のビールの消費額が、この年から遂に減り始めたのである。やがてビールから発泡酒、発泡酒から第3のビールへと低価格シフトが激しくなり、全体としてビールマーケットは一気に縮み始めた。
「わずかなリベートが頼みの綱だったディスカウント商法は、これでアウトです。しかも、これからは一挙に100億規模の投資で向かってくるガリバーを相手にしなきゃならない。とんでもないことになっちゃった」
すでに佐藤氏が社長を引き継ぎ、店舗数28、売上にして200億円ぐらいの規模にまで伸ばしていた。ときに佐藤社長はまだ30代後半である。
「甲子園めざしてがんばっていた高校生が、いきなり大リーガーと試合させられるようなもんですよ。ルールがひっくり返るわ、相手も変わるわで、まともに戦って勝ち目なんてあるわけない」
そこで佐藤氏はビジネスの原点に立ち返る。人より儲けるためには、人よりもローコストモデルでやっていくか、あるいは人より高く売るか。当時、展開していた業務用のお届け販売、店売り、家庭用お届け販売でどの道を選ぶか。
「三つすべてを今まで通りに続けていくのは無理。店売りは今後、絶対に勝負にならないと考えました。といって業務用はじり貧で将来性はあまりない。となると残るのは家庭用のお届け販売だけ。そこに賭けるしかないじゃないですか」
およそ蜘蛛の糸をつかむような話でしかない。けれども、わずかな希望の糸にしがみつき、佐藤社長はとんでもない大バクチに打って出る。
⇒次回「お客様のためのバリアフリー」へ続く(全四回)
『株式会社カクヤス 関連リンク』
・株式会社カクヤス ホームページ
http://www.kakuyasu.co.jp/
◇インタビュー:竹林篤実/松尾順/坂口健治 ◇構成:竹林篤実
◇フォトグラファー:大鶴剛志 ◇撮影協力:㈱オンボード
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FMO第20弾【株式会社カクヤス】
2009.02.24
2009.02.17
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2009.02.03