わずか3年で約100店を新規出店。23区内「どこへでも」配達を実現するためにカクヤスが採った拡大戦略だ。しかし、結果はぼろぼろ。全店の半数以上が赤字となった。崖から転げ落ちかけた同社を救ったのが、Amazon、アスクルに並ぶ『カクヤス・モデル』である。
第3回
「お客様のためのバリアフリー」
■クロネコヤマトにもできない宅配
「活路は宅配にしかない。でも、ちょっと成功したらすぐに真似されるに違いない。真似されないためにどうするか」
佐藤社長は当時の事業規模から考えればあり得ない戦略を採った。短期間で唯一無二のポジションを確保すること、そのためにクロネコヤマトでもできないお届けシステムの実現である。
「宅配について徹底的に議論したんですよ、とことんお客様目線で。するといくつも不満が出てくるわけです。そもそも配達エリアって何ですか。どこかでカクヤスなら持ってきてくれるって噂を聞いたお客様が電話をしてくださったとしましょう。ところが『お宅は配達エリア外です』なんていわれたら、このバカ野郎って怒りますよね」
配達エリアはあくまでも売り主の都合、配送効率に基づいて決められる。その決定プロセスに、当たり前のことだがお客様は関わることはできない。売り手の論理としては筋が通っているけれども、配達エリア外とされたお客様は、どうなるのか。ただお客様も、所詮配達エリアなんてそんなものだと諦めているのが実情だ。
「だから、ここにはビッグチャンスがあると確信しました。もし我々が『どこへでも』配達できればオンリーワン、ダントツのポジションに立てる。だからといって全国どこへでもなんて途方もない話は夢物語ですらない。でも都内23区だったらどうなんだって」
ここで生きてくるのが、例の商圏半径1.2キロのカクヤスモデルだ。仮に23区全域をカバーするなら、必要な店舗数は計算上137となる。とはいえ冷静に判断すれば、現状28店舗・売上200億規模のチェーンが、一挙に100も店を増やすのは、とんでもないバクチになるはずだ。
「しかも、増やすとしたら10年計画なんてのんびりやってちゃだめ。絶対に3年でやり遂げるんだって決めました。正気の沙汰じゃないといわれれば、その通りかもしれない。でも、我々には他に選択肢はなかったんです」
『どこへでも』を実現するだけでも途方もないのに、佐藤社長はさらなる差別化として『いつでも』『どれだけでも』までをコンセプトに据えた。
「この際、徹底的にお客様目線で突っ走ろうと考えました。お客様からしたら、たとえビール一本でも持ってきてほしいわけですよ。それも今日の晩飯のときに間に合わせてほしい。そんなわがままにとことんお応えしようじゃないかと」
カクヤスの採った顧客のためのバリアフリー戦略である。顧客にとってのバリアをすべて取り去る。それが実現できれば、顧客から必ず選んでもらえる。だが、本当に都内を一気にカバーするなんて芸当ができるのだろうか。
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FMO第20弾【株式会社カクヤス】
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