ニンジンが嫌いな子供に母親は、その形状が見えないようにみじん切りや、すり下ろして料理に混ぜ込むなどの苦労をして食べさせる。そこで好き嫌いがなくなればよいのだが、そんな苦労をしても、子供から大人に成長すると食べなくなってしまう人も少なくない。 やはり、人は嫌いなものはどうやっても食べないのだ。ましてやそれが嗜好品だったら・・・。
ニュースリリースを見てみよう。
http://www.kirin.co.jp/company/news/2008/0924_01.html
<【味覚特長】 ニュージーランド産ホップのフルーティで華やかな香りをさらにグレードアップさせるとともに、よりすっきりした軽快な味わいに仕上げた >とあり、<【コンセプト】 香りまで楽しめる、心地よい刺激の新ジャンル。さらにフルーティに >だという。
明らかにもはや、「ビール代替」というポジションではなく、<新ジャンル>としてのポジショニングを明確にしている。「ビールが嫌いなら、ビール味のものは飲んでいただかなくて結構。新たな味わいを提案します」ということではないだろうか。
飲んでみると「Sparkling」という部分をいかに強調すべ くモノ作りをしたかがわかる。分かりやすくいえば、「ポップフレーバーのスパークリングワイン」といった風情なのである。軽やかな口当たりと爽やかに広がるホップの香りが清々しい。
これならビールを飲まない人にも新しい飲料として受け入れられるのではないだろうか。シャンパンを「甘すぎる」と感じていた人にも受け入れられる可能性もあるだろう。CMでも繰り返し表現されている、「くるくる」という動作を導くキーワードも、わかりやすいのに新鮮だ。この言葉一つで、商品を介したコミュニケーションがその場に生まれるだろう。
アルコール度は5%と若干低めといった程度だが、度数以上に軽く感じられる。
シャンパン、ワインにレモネード。パーティーやイベントで飲まれる「ビールより洒落た」飲み物市場に、発泡酒ならではの低価格で投入されたスパークリングホップ。ハレの場で味を占めた若者が、「コンビニでチューハイとおつまみ買って、ちょっと一人で家飲みしよう」というケの日常習慣の中に組み込んでくれれば…という意図ではないだろうか。
ニュースリリースをもう一度見ると<【パッケージ】 ホップのフルーティさ、弾ける炭酸感を伝える現代的で新しさ・正統感を感じさせるデザイン>とある。正統感という意味では確かに麒麟が描かれているが、文字を見るとかつてキリンビールの製品では見たことのないフォントが使われている。缶自体もシャイニーだ。「現代的な新しさ」を演出しようという意図だろう。その意図はCMや販促物にも徹底されている。
嫌なものはどうやっても食べない。その当たり前なことに立ち返り、鮮やかなポジショニングチェンジをして、メインターゲット新たな提案を行った「キリン Sparkling Hop」。今後の売れ行きを見守ってみたい。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。