相次ぐ値上げラッシュの中で、フィットネスクラブの大手も値上げに踏み切るようだ。原油価格の高騰や電気料金の値上がりを吸収しきれずに会員に転嫁するとの判断であるが、果たして大丈夫なのだろうか?
<フィットネスクラブにも値上げの波 原油高騰など理由>
http://www.j-cast.com/2008/11/27031099.html
報道では最大手のコナミスポーツ&ライフとティップネスが各々315円の値上げと伝えている。コナミスポーツ&ライフは2度目の値上げだという。
値上げで心配されるのは顧客離反だ。特に、フィットネスクラブの利用は必需品ではないため、不景気による消費者の生活防衛意識が高まりる中では、切り捨てられてもおかしくない存在だからだ。
顧客が受け入れられる価値を「カスタマーバリュー」という。その価値に見合った価格の設定が欠かせない。それに対して、原価志向の価格設定は、自社でかかる固定費・変動費にどれだけ利益を上乗せするかという考え方になる。今回の値上げは、どちらかというと原価志向を反映した決定ではないだろうか。
この場合怖いのは、カスタマーバリューを原価志向で決定した価格が超えてしまった場合である。企業側で考えた価格が、顧客の値頃感を上回ってしまうことになる。例えば、今年、カップヌードルがメーカー希望価格を15円値上げした。結果的には店頭価格が30円値上がりし、100円を超える値段で売り出された。結果は値上げ前月比-56%の売上げダウンだった。つまり、カップ麺のカスタマーバリューは100円を超えてはいけなかったのだ。
315円の値上げ。たかが、それくらいの金額とは言っていられない。フィットネスクラブのカスタマーバリューを超えていないか。その金額の多寡の問題だけでなく、閾値を超えていないかが問題なのだ。
プライシングでもう一つ留意すべくは競合の価格だ。大手同士が揃って値上げということだが、代替となる存在があれば、そちらに顧客は流れてしまうかもしれない。
例えば女性専用のサーキットトレーニング・ジム「カーブス」。設備を絞り込み、トレーニングをセルフサービス的に提供するビジネスモデルは、消費者の低価格志向を見事にとらえ会員をどんどん伸ばしている。カスタマーバリューの閾値を超えてしまえば、「別にプールがなくたっていいか!」と割り切ってスイッチするユーザーも多くなるだろう。
さらに気になるのが、「幽霊会員」の存在だ。筆者にも身に覚えがあり、忸怩たる思いがあるのだが、入会金を払って月々の会費を払っているにもかかわらず、なかなか足を運ばない会員は実は相当数に上る。現実に全ての会員が押しかければ、設備的には破綻するはずなのだ。フィットネスクラブに限らず、会員サービスは活性度の低い会員に支えられているビジネスモデルでもある。その「幽霊会員」が、値上げの報に「この際やめちゃおう!」と思う可能性は低くない。
政治の世界に目を移せば、消費税率のアップが論議されているが、必ずセットで考えるべき歳出削減の議論が非常に希薄である。企業の値上げも、原価上昇を吸収ししれないという苦しい事情があるのかもしれないが、値上げの前に今一度、思い直すことが必要なのではないだろうか。「入りを生じて出を制する」がビジネスの基本なのだ。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。