早朝通勤客と夜通し遊んだ帰宅客がすれ違う池袋駅前、朝6時過ぎ。 路上にはタバコの吸い殻、空き缶、ペットボトル、ガム、ティッシュなど種種雑多なゴミがこれでもかと散乱している。これからここを清掃するのだ。誰に命じられたわけでもなく、自主活動として。
清掃活動を展開する団体はいくつかあるが、有名なものとしては、平成5年にカー用品チェーンイエローハットの創業者・鍵山秀三郎氏の掃除哲学に学ぼうとして結成された「日本を美しくする会」がある。<掃除を通して、自分たちの「心の荒み(すさみ)」と「社会の荒み(すさみ)」をなくすことを目指しています>との活動趣旨を掲げている。
同会の活動は「掃除に学ぶ会」として各地でトイレ掃除や地域の清掃を展開。さらに、その趣旨に賛同したいくつかの企業で、「職場のトイレ掃除の実践」などが派生的に行われているという。
今回の池袋の街頭掃除は日本大学経済学部准教授の大森信氏が発起人である。組織認識論の研究として、「掃除によるリーダー育成、およびコミュニティー形成」を検証する活動の一環だ。
業務に取り組む姿勢として整理整頓や職場環境の整備を重要視する企業は多い。製造業では当たり前であるが、意外なことにネットベンチャー企業としてスタートした楽天も社長の三木谷氏のこだわりで、各自の机の周りや椅子の果てまでもきれいに磨き上げてから始業することが徹底されているという。しかし、トイレ掃除を含む、清掃活動は正規の業務ではない。街頭掃除はもとより、職場のトイレも仕事と直接関連する場ではない。あえて、その「人が好んでやらないことを行うことで、身につくものがある」ということが掃除に取り組む企業の狙いであるようだ。
正直、この手の精神主義的な考え方は好きではないのだが、大森准教授が学会で発表した内容に触発されて体験を志願したのだ。大森氏の発表は、ある企業におけるトイレ清掃活動を通じた新入社員の心理変容についてであった。わずか2週間で自発性と規律性の向上したという効用が見られたという。僅か一度の体験でわかるものではないであろうが、何らか感じるものもあろうと思ったからだ。
今日の掃除には9名の参加者があった。美容師、地元企業の勤め人、区議会議員などなど。各々の参加目的はわからないものの、手に手に清掃道具を持ち、てきぱきと池袋東口の駅前を掃除していく。筆者もほうきとちり取りでタバコの吸い殻などを集めつつ、空き缶などの大きなゴミをビニールに回収していった。
大森氏によると、清掃活動は、「掃除から学ぶ」という段階に至る前に「掃除のしかたを学ぶ」という段階を経るという。しかし、トイレのような場所に比べて街頭は難易度は高くない。ほうきとちり取りで、ささっと鮮やかに吸い殻を集めることはすぐできるようになる。なんとなく、ディズニーランドの掃除のお兄さんになった気分で少し楽しい。誰が飲み捨てたかわからないような空き缶や、食べ物のカスなどを集めるのは抵抗があったが、それもすぐ慣れた。
自分でも少し意外な気がした。恐らく命じられて一人で掃除を行う場合、その抵抗感の払拭は難しかったであろうし、ほうきとちり取りの扱いに楽しさを覚えることもなかっただろう。自発性が一つのカギであるのだと思う。だとすると、企業内での「掃除を通じた人材育成」を考える場合、「やらされ感」が出ないことが大きなポイントとなることがわかる。
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2008.10.16
2008.10.19
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。