「物を買う(調達・購買)」は易しいことでしょうか? 確かに誰もが物は買っていますし、それを仕事でやっているという意味が何かわからない、という実務者もいらっしゃいます。
物を買うということは易しいことでしょうか?
「物を売ることに比べたら易しい」
「物を買うことは万人がやっている(やれている)」
こういう言葉が返ってくるかもしれません。
確かに万人が物を買っています。小学生~お年寄りまで。
しかし、企業として大量かつ継続的に物を買うことは思った以上に難しいことだと思います。
特に昨今の原材料の市況高騰の中、安定的に調達をすることは思った以上に難しいことです。
鉄を1Kg買うことはそれほど難しくないでしょう。でもそれが月間1000トンで、それを安定的に調達する、という話になると全く難易度が変わってきます。
最近、このような調達することの難しさを体感する機会がいくつかありました。
まずは、関西のある企業さんの事例です。
彼らはグローバル企業の100%子会社で地域に根差した企業です。
歴史もそれ程古くなく、話を聞いた方も会社設立して間もなく入社し、ずっと調達部門に従事された方でした。
彼らは大企業がよくやるような「付き合いの深いサプライヤに同じ地域に工場を進出させる」というやり方をせずに地場で優秀な企業を探し出して今のサプライヤベースを築いてきたとのことでした。
彼らは設立後もそのような方針で調達を行ってきたことから、調達の難しさをよく理解しており、決して「買う」という強い立場でサプライヤと接してきませんでした。
今でもサプライヤをパートナーと位置づけ「声を聞く」のではなく「双方向のコミュニケーションを行う」ことを重要視しています。
彼らの素晴らしい活動は親企業の調達部門からも注目され、グループ内でのベストプラクティスとしても取り上げられているとのことです。
これらの活動の基本になっているのは、彼らが「調達することの難しさ」を知っていたからではないでしょうか?
次はある銀座の焼鳥屋さんでの出来事です。
そのお店は90年の歴史を持つ有名な焼鳥屋さんです。
一口食べると感動する位美味しいお店です。
私は店主に「なんでこんなに美味しいのですか?」と尋ねました。
すると店主は「素材がいいからです。」と一言答えました。
「素材もそうでしょうけど、焼き方もあるのでは?」私が繰り返し尋ねると店主はこう答えました。
「いや、素材だけです。いい鳥を90年育て続けてくれている養鶏家の方が素晴らしいんです。」
私はびっくりしました。このお店は90年間契約している養鶏家から安定的に鶏肉を調達し続けているのです。その間に戦争があったりオイルショックがあったり、バブルがあったり、それでも調達し続けているのです。
その店主は今でも毎月2回かこの養鶏家を訪問して自分の目で鳥を確かめに行っているんだそうです。
「素晴らしい素材や物を調達し続けるのは難しいし、手間もかかる。」
調達することって難しいことではないでしょうか?
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2009.02.10
2015.01.26
調達購買コンサルタント
調達購買改革コンサルタント。 自身も自動車会社、外資系金融機関の調達・購買を経験し、複数のコンサルティング会社を経由しており、購買実務経験のあるプロフェッショナルです。