分子生物学者・福岡伸一教授の示唆に富んだコラムからご紹介したい。
日経新聞08年8月7日付夕刊「あすへの話題」。執筆者は青山学院大学理工学部化学・生命科学科教授・福岡伸一氏。氏は著書「生物と無生物のあいだ(講談社現代新書)」でも知られている。
コラムは「つくるまえにこわせ」と題され、生物の細胞の仕組みについて述べられていた。
最近の研究で、細胞を構築する<タンパク質の合成ルートは一通りしか存在しない。しかし、タンパク質を分解するルートは何通りも存在>するという。そして、氏は<細胞の内部空間は限られている>故に、まず、こわすことは当たり前の帰結であると説いている。
さらに、このコラムの冒頭でも触れられている、分子生物学の発展の歴史も興味深い。<生命のミクロな分子群が緻密なメカニズムで作られる仕組みを追いかけそれを解明してきた>という<つくることばかりに目を奪われてきた>流れから、昨今、コラムの本題である<こわす仕組み>への注目がなされていると指摘している。
生物の細胞の仕組みは「つくるまえにこわす」設計が幾重にも施されているということが、コラムのキモであるが、転じて、我々の思考プロセスはどうなっているだろうか。
論理思考の基礎はWhy so?, why,why,why,why・・・と「なぜ」を繰り返すことにある。しかし、さらにそれを進めて、自らのロジックを打ち壊すのはなかなかに勇気がいる。故に、「自説への固執」が起きる。
論理思考の基本としては「ゼロベース思考」も挙げられる。既存の常識や既成概念も一旦リセットして、ゼロベースでものごとを考えていこうというものだ。特に世の中の環境や仕組み、ルールが大きく変化している昨今、このゼロベース思考は重要だとされている。
確かに、思考の原点をゼロからはじめるのは重要だろう。ただ、思考の途中から、何度でもその原点に立ち戻るのも、やはりなかなか勇気がいる。やはり「固執」が起きる。
もし、原点に戻ったり、ロジックを自ら否定することが苦に感じられ、少しでも固執を感じた時には、コラムにある「つくるまえにこわす」という仕組みが自らの中にも自然と備わっていることを考えてみてはどうだろうか。
ものを考える時、どうしても先に進めようと、<つくることばかりに目を奪われ>がちになってしまう。まず、「壊す勇気」を持つことが重要なのだと認識したい。
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2008.08.13
2008.08.14
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。