「え!1秒で読めるの?」という素直な反応は、知性と教養が邪魔をしてできませんでしたが、上手なタイトルだなあ、と思い買ってみました。著者によると、ビジネスマンが経営的に財務諸表を読めるようになるために書いたそうです。
ただ、調達コストという観点から行くと、金利が負債の調達コストになり、純資産の調達コストは国債金利+αになる。こう考えると、純資産の調達コストのほうが高くなる。調達した資金を、まわして収益を得ることが企業の使命なので、高いコストで資金を調達している企業は、より高い利回りを求められる。
こういうことを判断するための調達コストの指標をWACC(加重平均調達コスト)と言い、利回りの指標をROA(資産利益率)と言います。この2つの指標を見比べて、企業が調達のコストに対して、適切な利回りを出しているか判断する。
花王がカネボウを買ったのも、自己資本比率がやや高すぎて、経営効率が悪いと判断されないためだったろうし、無借金経営と思われがちなトヨタ自動車が、借金をしているのも、WACCを下げて、ROAとのバランスを取るためと言える。
ブルドックソースがスティールパートナーズに狙われたのは現金の資産が多い割りに、ROAが低い、つまり企業の能力をフルに使って、事業を回していないという判断をされたからである。
また、高い自己資本比率を持っていて、低ROAの企業は、現金資産を多く保有しているので、ファンドから見た場合、借金をして、その企業を買収し、その企業の現金で借金を返すと言うLBO(レバレッジドバイアウト)の手法が使える。そうすると、ファンドの利回りは非常に高くなるので、買収に踏み切りやすい。
上場したのならば、効率的な経営を求められるのは、当然であり、高自己資本比率、低ROAを放置することは許されない。もしも、株主からの効率的な経営を求める圧力を受けるのが嫌なのならば、上場を廃止すればいい。
ただ、米国でも外資の買収に対する、法律による防衛は実施されている。軍需産業だけではなく、先端技術に関しても、外資規制をすることは国益に適うものである。そういった領域以外は、自由な投資活動を実施したほうが、経済は活性化すると考えられるので、国益に照らした判断が重要である。
貸借対照表の最後に、連結と持分法適用の違いについて。連結対象子会社になると、親子間の取引は相殺されて、全ての数字が合算される。持分法適用であれば、株の持分に応じた利益を営業外収益に合算するだけである。
イオンがダイエーを連結対象子会社にせず、持分法適用に留めているのは、ダイエーが大きな負債を持っているので、それを合算して財務諸表上の評価を悪化させたくないからである。当面、影響力を保持するだけで、イオン側にはメリットがあるので、ダイエーの財務内容が改善されてから、子会社にしてもよいのである。
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2015.07.17
2009.10.31
THOUGHT&INSIGHT株式会社 代表取締役
THOUGHT&INSIGHT株式会社、代表取締役。認定エグゼクティブコーチ。東京大学文学部卒。コンサルティング会社、専門商社、大学教員などを経て現職。