先日、調達購買業務DXのセミナーで講演をしました。そこで、いくつか質問されたのが、ROIについてです。具体的には、調達購買業務DXでどうやってROIを出していくのか、という質問でした。最近はあまり、そういうことを聞かれることも少なくなったように(少なくともコンサルティングプロジェクトでは)感じていましたが、やはりまだ根強いROI志向があるようです。 私は長い間調達購買の専業のコンサルタントなので、他の分野についてはあまりよく知りませんが、IT企業さんなどと話をして良く聞くのは、特に、調達購買部門はROI志向が強そうに感じます。 何故でしょうか。
企業のインフラも全く同じであり、インフラへの投資を抑えてしまうと、次第に仕組みが陳腐化し、知らない間に事業や会社の競争力が蝕まれてしまうのです。
もちろん無駄な投資は排除すべきです。しかし、無駄かどうかの捉え方もRの捉え方次第となってしまいます。短期的、近視眼的にRを捉えてしまうと、Iを抑制する方が簡単ですし、個別案件毎のROIを見て意思決定する方が、やりやすくなります。
早稲田大学ビジネススクール教授の根来龍之氏が、あるインターネット記事でこう言っていました。
「ROIは分母の「インベストメント」(投資)を減らせば当然上がるわけで、分子(成果)を増やすのではなく、投資を減らす方向にいくことがあるので、注意が必要です。加えて、ROIをプロジェクトごとに評価していることも問題です。
本来、ROIは個別プロジェクト単位ではなく、事業単位で考えるべきです。優れた企業は、個々のプロジェクトの採算管理はしっかり行いながら、事業全体の長期的なROIを優先的に考えていると思います。
何が事業全体の長期的なROIを高めるかといえば、結局のところ競争力です。競争力があるからROIが上がると考えるべきであって、ROIを上げること自体を目的化すると、かえって競争力が劣化する可能性があります。投資を減らせば短期的なROIは上がるからです。
仮に短期的なROIは低くても、事業全体の競争力向上のために必要ならば、投資判断を下すべきです。」
(出展:DHBR 2022.07.01「AI活用の成果に内外格差。そのギャップをどう埋めるか」)
このように、個別のROIはあくまでも手段であり、目的ではなく、最終的なゴール(目的)は企業の競争力を引き上げること、ということはとても納得感があります。
仕組みづくりは企業のインフラという話をしましたが、例えば、経理システム導入の場合にROIを求めることは、しないでしょう。経理システムの導入の目的は、早期決算や、企業の信頼性を高めるためのものであり、効果を定量的に計算することは難しいです。
企業の競争力の要因としては、意思決定や変革のスピードが上げられますが、スピードが上がったことを定量的な効果として示すことは難しい。最近はこれに加えて、コンプライアンス
などの統制、CSR、サステナビリティやGXへの対応などの非財務価値がESG投資などにもつながり、企業の競争力の源泉になりつつあります。本来であればこれらの非財務価値も定量化し、効果を定量的に算出すべきですが、これには限界があるでしょう。
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2009.02.10
2015.01.26
調達購買コンサルタント
調達購買改革コンサルタント。 自身も自動車会社、外資系金融機関の調達・購買を経験し、複数のコンサルティング会社を経由しており、購買実務経験のあるプロフェッショナルです。