近年、日本企業は「製品スペックで勝っても、事業で負ける」というような問題に直面することが多くなりました。情報や知識、技術よりも上位にある事業概念レベルでの創造力に弱さがあることが1つの要因ではないでしょうか。「概念のイノベーションを起こす力」ともいうべき、事業に対する在り方、中核的価値、グランド・コンセプトを打ち立てる思考力が、いま強く求められています。
しかし同社にある1人の役員が入ってきて状況が変わりました。彼は自社が提供する価値を「さわやか・あんしん・あったか」とし、「魅せる清掃・おもてなしとしての清掃」に転換する意識改革・業務改革を行ったのでした。すなわち「車両清掃 as (a) おもてなし」というべき事業概念を掲げたのです。
自分たちの仕事がお客様1人1人の旅の一部になりうる。ならば清掃という仕事はどうあらねばならないか。まさに在り方を基点にして、同社の事業は生まれ変わりました。
もう1つ、アドレスが展開する事業も発想型Bでとらえることができます。同社は「地方の空き家 as (a) 場所に限定されないプチ移住」の事業です。日本全国に地方の空き家物件はかなりの数に上ります。それらを1軒1軒、不動産取引として売買したり賃貸したりするのは事業として難しいものがあります。しかし、そこに中核的価値の軸を通し、統合的なサービスとしてまとめあげると魅力的な事業が誕生します。
アドレスが考えたお客様に届ける中核的価値は、「場所に限定されないプチ移住」とか「住むように旅をする喜び」などのように想察できます。この提供価値を実現させるために、全国の地方にある空き家をいくつもリノベーションし、移住的滞在希望者に向けて整備し、物件をネットワーク化します。その結果、利用者は月定額の料金を払って会員になれば、同社の管理する全国の物件のどこにでも好きな期間滞在ができます。宿泊費、光熱費等は会員費に組み込まれています。このような「定額・多拠点住み放題サービス」は新しい概念の光を当てたことで生まれたものです。
ごく普通の商材は新しい概念の光を当てることで生まれ変わる
3つめは、Xに[商材]、Yに[切り口・形態]がくる発想型Cです。その事例としてあげたいのは、なめがたファーマーズビレッジ(茨城県行方市)です。同施設は民間企業とJAなめがたしおさい、行方市の3者の共同で成功を収めたということで、私は数年前、ある研究グループの活動でここに視察に行きました。
行方市は国内におけるサイツマイモ生産の中心地の1つです。しかしながら、サイツマイモという商材は一次産品であり、どうにも単価が安いし、多少の加工品をつくったとしてもインパクトが弱い。その地味な商材に「エンターテインメント」という概念の光を当てて起こした事業が、なめがたファーマーズビレッジです。
その施設は廃校となった中学校の校舎、敷地を利用してつくられました。エリア内には加工品売店、レストラン、やきいもファクトリーミュージアム、サツマイモ畑などが整備されています。ここでは、サツマイモについて「食べる、育てる、遊ぶ、つくる、買う、考える・知る、働く、つながる」というテーマで活動ができるようになっています。単にレストランで食事をして、土産菓子を買って帰るというのではなく、ミュージアムで食育を学ぶ、キッチンでスイートポテトを焼く経験をする、年間で畑オーナーになってサツマイモを育てて収穫する、この施設で就業体験をするなど、サツマイモをいろいろな角度からエンターテインメントできる機会を集積させたことにより、「サツマイモだけでここまでやるか」というユニークな事業が誕生したのでした。
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2015.07.10
2009.02.10
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。