近年、日本企業は「製品スペックで勝っても、事業で負ける」というような問題に直面することが多くなりました。情報や知識、技術よりも上位にある事業概念レベルでの創造力に弱さがあることが1つの要因ではないでしょうか。「概念のイノベーションを起こす力」ともいうべき、事業に対する在り方、中核的価値、グランド・コンセプトを打ち立てる思考力が、いま強く求められています。
概念構築の肝は「中核的価値」をあぶり出すこと
まず1番めに、Xに[中核的価値]、Yに[切り口・形態]がくる発想型A。例えば、メルセデス・ベンツ社が打ち出した「モビリティ as (a) サービス」がこの型です。クルマという製品が中核にもつ価値を「モビリティ」ととらえ、それを「ひとつのサービスとして」売る仕組みを構築する。
また同様に、ヘルスメーター(体組成計・体脂肪計・体重計など)のトップメーカーであるタニタもこの型の発想により事業転換を図ろうとしています。
すなわち、タニタはもはやハードウエアをつくり、1台1台に値段を付けて売り切っていくという従来の製造業の形から脱皮しつつあります。同社がユーザーに届ける中核的価値は「健康の見える化」と想察されます。同社の谷田千里社長は、「はかる」を通して世界の人々の健康づくりに貢献していくことを理念にすると表明しています。
いわゆるIoT(Internet of Things)やDX(Digital Transformation)などの進化によって、個々のユーザーがヘルスメーターで測定する数値はネット経由で集めることができ、それを蓄積・解析してユーザーに戻すことが可能になります。さらには個々のユーザーの健康状態に合った食品を提供することもできるでしょう。同社はタニタ食堂の運営や健康食品づくりの監修を推し進めており、その分野での実力を確実につけています。「健康の見える化 as (a) サービス」という事業概念の転換により、同社は製造業を基盤としながらも、中核的価値のもとに総合的な利便性を売る企業に変貌していくことになります。
発想型Aとしてキッザニアもあげておきましょう。キッザニアの行う事業がなぜユニークなのか。それは、世の中には就職・キャリアに関わる支援や教育サービスがたくさんありますが、同社はそれを「テーマパークとして」打ち出したからです。すなわち「職業に関するビビッドな体験・理解 as (a) テーマパーク」という事業発想です。子どもに職業を体験させよう、理解させようとする事業はこれまで、現実の職場でのインターンシップであったり、書籍であったり、セミナーであったりしました。それをテーマパーク化という斬新な切り口で形にしたのがキッザニアです。
「車両清掃 as (a) おもてなし」という大胆な事業概念の転換
次に発想型Bは、Xに[商材]、Yに[中核的価値]を置く型です。例えば、JR東日本テクノハートTESSEIという会社があります。同社は東京駅などホームに入線してきた新幹線車両を発車までの数分内に手早く清掃をする清掃員を派遣する事業を行っています。あるときまで同社もそこで働く清掃員も、みずからの事業は単に清掃業という認識でした。そのため、仕事は地味で暗いという固定観念のもとで行われていました。
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2015.07.10
2009.02.10
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。