ヘムの一族:チーズは戻ってくる?

画像: Wisconsin Cheese: Wikipedia から

2021.12.05

経営・マネジメント

ヘムの一族:チーズは戻ってくる?

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/原題は、おれの御得意客を奪ったのはだれだ? というようなニュアンスが隠されている。そして、ヘムが迷路に行こうとしないのは、その犯人さえいなくなれば、御得意客が戻ってくる、と考えているから。/

つまり、御得意客、チーズそのものが無くなった。迷路に入って探しても、ムダ。無いものは無い。その迷路には、出口さえ無い。たとえば、電気自動車。ガソリン車がダメなのはわかるが、電気に換えれば、まだあの御大尽の老団塊世代が買うと思うのか。生活にもこと欠く若い連中が、自動車でレジャーに出かけると思うのか。

コロナ後を見据えるなら、むしろ人口半減、売上半減でも成り立つビジネスモデルを考えなければならない。過去を基準とした固定費、人件費では、とうていムリ。イメージとしては、150年前、十九世紀後半の開拓時代。町の新聞社は、取材から配達まで、十人そこそこ。食品は、地産地消でパパママストア。自動車なども、ばらばらのパーツで買って、町の工場が組み立てを依頼。その他は、店など持たず、天気の良い日に公園にテントを並べる。

かつて文明は、農業の発展で余剰作物ができて、それを収奪再分配する豪族が出現してできた、と言われる。だが、その余剰が無くなると、その逆回転が起きる。いまはまだ、家賃だの配当だのの不労所得で経済格差が広がっているが、さらに下の貧困が悪化すれば、収奪の余地も無くなる。平安時代の貴族が没落するのも、収奪されて食えなくなった村人が逃散してしまったから。低賃金も、限界を割り込むと、労働者の方がいなくなる。実際、すでに賃金の安い地方なんか、人が逃げ出すばかり。

しかし、こんな衰退する逆回転社会は不幸なのか。上に乗っているイッチョカミ連中が多すぎて、ちょっと物事を変えるのにも調整に手間取って、ばたばた過労死するような時代が幸せだったのか。好むと好まざるとに係わらず、もうおめでたい御得意客はいない。これで大都市に災害でもあれば、一気に時代が変わる。出口の無い迷路をうろうろしているヒマがあったら、覚悟して冬支度するのも大切だ。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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