「ノックは2回??」エリート学生に謎マナーは無用

2021.01.04

組織・人材

「ノックは2回??」エリート学生に謎マナーは無用

増沢 隆太
株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

年も明け本格化する新卒就活。就活には黒スーツ、ノックは3回・・・・といった「作法」を知らなければマトモな社会人には成れない!とばかりにマナー講座、「社会人の常識」講座などで言われるのですが・・・ホントなんでしょうか。

・ノックの回数を心配する学生
年間延べ300人を優に超える学生の進路相談・就活相談を毎年受けています。就活相談ではマナーに関するものもあります。特に私が対象とする理系学生は、文系に比べて就活にかけられる時間も限られており、就活知識を不十分と感じている学生が少なくないのでしょう。

「ノックは3回がビジネスの常識。2回ノックはトイレだから絶対ダメ」と学外のマナー講座やネット、先輩が言っているということで、面接練習でうっかりノックを2回してしまい、「す、す、すみません、もう一度やり直して良いでしょうか」と大慌てする学生もいます。しかしこれって、そんなに大事なことなのでしょうか?

多くの企業がオンライン面接となる中、一部の企業や公務員ではいまだにリアル面接が行われているのです。私は相談学生に、「本番の面接はもっと緊張すると思うけど、そんな時もノックの回数間違えたから『もう一回やり直させて』って言うの?」と尋ねます。私が指導しているのは面接テクニックではなく、社会人として上位校学生に期待される思考の訓練なのです。

私は人事コンサルタントとして企業の採用支援や人事政策への提言をしつつ、大学教員として新卒大学生・大学院生のキャリア指導をして15年になります。東北大、東工大をはじめ、いわゆる上位校と呼ばれる高偏差値大学・大学院の、特に理系学生の就職指導でそれなりの実績を上げてきたと自負しています。

・理系学生の就活
現実の理系トップクラスの学生採用をしている企業の方ならご存知でしょうが、こうしたトップ校の理系学生は、学部ではなく修士課程に9割が進学するため、就活は大学院生が主流になります。この時点で文系学部生のいわゆる「大学生の就活」というくくりと一緒にはできない実態があるのです。当然ながら理系トップ層の学生採用の基準で「マナー」に重きが置かれることはありません。

社会に適応できないほどの非常識な学生では論外なことはいうまでもありませんが、「ノックを2回したからトイレとビジネスの区別がつかない」と判断するような採用者は、少なくともこうした上位層学生を採用する場面では、数学的にあり得ない確率と考えるべきでしょう。ノックの回数のような枝葉末節を気にするあまり、面接をもう一回入るところからやり直すというのは非現実的であり、何より将来の幹部候補としての判断力への疑問を持たれてしまうことでしょう。

社会人を30年以上やっている私も理解しかねる謎マナー。就活だけでなく、冠婚葬祭などの普段日常的ではないシーンでの作法を説く本やサイト、マナー講師と称する人がこうした言説を振りまいています。不安につけ込むというのは言い過ぎかも知れませんが、謎マナーは社会経験の乏しい学生、特に理系や上位校文系学生には有害だといえます。それは謎マナーが正しいかどうかよりも、そうした訳のわからない情報を咀嚼するのではなく信奉してしまうような「思考」にあります。

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増沢 隆太

株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。

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