文化放送The News Masters TOKYO『マスターズインタビュー』。 東京農業大学を退官した後も、6つの大学で教鞭をとる多忙な小泉武夫さん。 近年の発酵ブームもあって引っ張りだこである。長年の小泉ファンで、著作も愛読している文化放送『The News Masters TOKYO』のパーソナリティのタケ小山も大興奮。 希代の発酵学者とともに不思議でおいしい発酵の世界へ出発!
臭いものはおいしい、寄食珍食のエキスパー
小泉さんの経験上、うまいものは臭い確率が高い、発酵食品が多いということだ。国内でも海外でも「寄食珍食」の噂を聞くと、食いしん坊の血が騒ぎ、駆け付けて、食べないわけにはいかない。せっかくなので、タケは忘れられない変わった食体験について、聞いてみた。
「色々なものを食べてきましたが、石川県には非常に珍しい発酵食品があります。『フグの卵巣の糠漬け』これは猛毒中の猛毒(テトロドトキシン、青酸カリの180倍)です。江戸時代から作られていて、仕組みは科学的にも証明されていないのですが、糠味噌の中に入れて3年漬けて毒を抜きます。うまみが強くて、漬けあがったやつをバラバラとほぐして、ご飯の上にのせたり、お茶漬けにするとおいしいですね」
珍しいお酒にも造詣が深く、100年前に作られ、今は作られていない中国の酒にも出会った。
「満殿香酒(マンディンシャンチュ)という酒で、ビャクダンなどの香料を87種類入れて3~5年熟成します。試飲したら翌日の朝、尿や汗からお香の匂いがしました。文献によると『30日飲み続けると身体からすべての病気が消える』そうで、万病の薬。今中国の大学などと再現しようとしていますが、材料が足りなくて、探しているところです」
著作にもある臭い食べ物、極北の『キビアック』も例にあがる。文字通り『腐った鳥』という意味で、海燕を500羽アザラシに詰めて3年ほど発酵させるのだそうだ。
「これも臭いがうまい。乳酸発酵の産物で、熟成に3年かかるのは、夏が短いから。3カ月しかない夏を3回通らないと、凍り付いていて発酵が進まないんですね。強烈なうまみの元は海燕のアミノ酸ですが、植物が生えない極地で確保できる貴重なビタミン源でもあります。厳しい環境で人が生きるために経験的に得た知恵なんですね」
「鯨は国を助く」鯨問題は日本の将来の問題
最近、日本は国際捕鯨委員会(IWC)脱退し、商業捕鯨に復帰した。漁業に並々ならぬ関心があるタケはずっとこのことが気になっていた。捕鯨と鯨文化についての著作もある小泉さん、脱退についてどう思っているのだろう。
「脱退は遅すぎたくらいだと思っています。戦後すぐ、日本人は動物性蛋白を7割鯨に頼っていました。鯨を獲り過ぎて激減したというので、日本が科学的に調査をしたのがIWCの始まり。商業捕鯨を続けるために始めた活動のはずが、いつのまにか環境問題にすり替わってしまった。クジラはどんどん増えている。ミンククジラは170万頭で、かつて捕鯨を行っていた時よりも多い。日本の商業捕鯨は4000頭獲れば成立します」
増えているのだからいいだろうと主張しても通じないのは、捕鯨委員会には鯨を食べない国にも投票権があるからだ。しかし、今の若い人は鯨を食べたことがない人も多い、そんな状況でも捕鯨文化は大事なのか?タケは率直に疑問をぶつけてみる。
「捕鯨は日本の食にとって大事な技術です。地球環境の変化でだんだん魚が取れなくなり、豚コレラ、鳥インフルエンザなど家畜の病気だってこれから多発するかもしれない。将来的に日本に肉を売ってくれる国がなくなるかもしれない。なにより、大量の小麦を費やして牛を育てるより、鯨を食べる方がずっと環境にやさしい。次の世代に捕鯨スキルを伝承しておくことは実はとっても大事なことだと思います」
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