2018年夏の記録的猛暑を受け、2020年夏に開催される東京オリンピック・パラリンピック競技に支障が出るのではないか、と懸念が広がっている。 これに対して、マラソンや競歩などを朝7時にスタートさせるなどの対策で乗りきろうとしているが、その実効性には疑問が残る。 そこで、にわかに注目され始めたのがサマータイムの導入だ。日の出の時刻に合わせて、一日の時間を前倒しにする手法は多くの国で採用されているが、日本ではなじみがない。サマータイムを導入すると何が変わり、どのようなメリット・デメリットが生まれるのか考えてみたい。
③ 体調不調、精神的負担、労働者の生産性低下が懸念
生活の時間帯が変わることで、人体の体内時計が狂うことが懸念されている。体内時計は自律神経、ホルモン等とも密接に関係しているため、体調不調に陥る人々や、精神的負担による労働者の生産性低下も懸念される。実際に、2015年の世論調査で54%がサマータイムに反対したフランス、2017年の世論調査で74%がサマータイムに反対したドイツ……と、EUでは廃止についての本格的議論が始まっている。
④ ITシステムへの影響が多大
日本のI Tシステムはサマータイムを前提に設計されていない。導入となれば大規模なシステム改修が必要となり、莫大なコストもかかる。1年ほどの準備期間ではコンピューターシステムの大規模改修はとうてい間に合わないと、業界からはすでに悲鳴があがっている。
簡単なシミュレーションだけで、これらデメリットはすぐに想定できる。
年間7000億円超の経済効果と試算した永濱エコノミストも、経済効果は認めつつ「競技時間の変更等で対応するほうが国民の理解を得やすい」と結論づけている。
拙速な導入は混乱のもと。いま一度、慎重な議論を
一定の経済効果は期待できるものの、さまざまな問題も想定できるサマータイム導入。
期間限定とはいえ、東京オリンピックオリンピック・パラリンピックのためだけに導入するのは相当無理がある、これがいまいまの現実的意見だろう。
「サマータイム導入」なる社会システムの変更は、一部に「政府として取り組める一番やりやすいもの」という意見もある。思い起こせば、“崩し”の基準に迷走し、ダサい男性諸氏を大量発生させた「クールビズ」もそう。鳴り物入りでスタートしたものの大失敗に終わったと酷評される「プレミアムフライデー」もそう。
いずれも政府が旗振り役の国民的キャンペーンだが、どちらも議論かまびすしい末に、恩恵を受けている人の割合が数パーセントという惨憺たる結果に終わっている。
こうした反省を踏まえ、「サマータイム」もいっときのノリで拙速に決めるのではなく、オリンピック・パラリンピックの開催時期を秋にスライドさせるなど、国民生活に混乱をもたらさない方法をいま一度模索すべきという声も依然として多い。開催時期についてはすでに議論が終わり、やむなく7月の最も暑い時季に東京で……と結論づけられているようだが、再考は不可能なのだろうか。
なにはともあれ「サマータイム」導入を拙速に決めるのではなく、慎重な議論が求められることは確かだろう。
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