日本銀行は先月末に金融政策決定会合を開催し、金融政策の方向性をより明確化しました。一つはフォワードガイダンスの導入と、もう一つは、これまでの量的・質的金融緩和に弾力性を持たせたことです。今回のレポートでは、これらの金融政策に言及します。
現在の景気状態と物価上昇率
黒田日銀総裁が就任した2013年4月導入した異次元質的・量的金融緩和から5年が経過しました。日本の景気状態は、いろいろと議論がありますが、曲がりなりにも比較的良好は経済状態を維持していると言えるでしょう。
米国ファーストのもと、トランプ大統領が仕掛けた貿易摩擦が今後ネガティブに拡大すると世界経済の足を引っ張りかねないという懸念材料は存在しますが、直近第2四半期GDP(国内総生産)0.5%前期比、1.9%前年比と市場予想よりも良い数字です。米国経済に引っ張られ、また中国経済もやや停滞気味であるものの、訪日観光客が増え、インバウンド需要も景気拡大に貢献しているようです。
しかし黒田総裁が明言していた物価目標(インフレ)が一向に2%に向かわない状況にあります。景気は改善しているのに、どうして物価目標は上昇しないのかとのジレンマに黒田総裁以下、日銀委員は苦悩しています。
主要先進国は出口戦略に
筆者は世界的な低金利のもと、ゴルディロックス(適温経済)が続いている結果ではと思います。それがここにきて変化が出てきているようです。米国は、FRB(米連邦準備理事会)が金融政策を利上げ方向に強めています。そしてユーロ圏ではECB(欧州中央銀行)が来年夏以降にも利上げを検討しています。同じくBOE(イングランド銀行)も今月利上げに踏み切りました。主要先進国がこぞって低金利政策からの出口戦略に踏み切り始めました。
しかし日本の消費者物価指数は一向に上向きません。下記のグラフ(出所:ウォールストリートジャーナル紙)は、2014年からの消費者物価指数(コア)とゴールドマンサックス社の今後の予想を示しています。6月消費者物価指数コア0.8%です。予想では、3年後の2012年でも1%に届かない予想となっています。これでは黒田総裁としても少々軌道修正が必要になってきたのではないでしょうか。
そんな中で金融政策決定会合が開催されました。筆者は6月米系情報会社のセミナーに参加した際、日銀がこの秋にも利上げに踏み切るとの予想を耳にしました。世界主要中央銀行の流れに沿った金融政策に変更するのではとの観測です。
日銀のフォワードガイダンス
このような観測に対して日銀は明確に否定しました。それがフォワードガイダンスです。フォワードガイダンスとは、中央銀行が表明する非決定な金融政策のことで、FRB、ECBなどでも導入されています。今後の金融政策を金融市場に事前に通知し、金融市場の動揺を未然に防ぐ効果があります。
それを今回日銀が導入に踏み切りました。「日本銀行は2019年10月に予定されている消費税引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在の極めて低い長短金利の水準を維持することを想定している。」と書かれています。
日銀の楽観的インフレ見通しでは2020年度に1.6%に上昇するとしています。この意味から察すると少なくとも2年以上現在の低金利政策が続く見通しでしょう。そして、来年予想される消費税引き上げによる一時的景気後退も想定内にあるようです。
短期金利では、当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用していますが、マイナス金利適用で金融機関は大きなダメージを受けています。現在約10兆円に対して課されているマイナス金利を5兆円にまで減額するとして、金融機関に対しては優しい政策変更を示唆しています。金融機関のマネーに対して若干色を付けましょうということです。現状の強力な金融緩和は明確に継続するものの、日銀は金融機関に配慮しているといえます。
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