この20年位の期間、日本企業の購買業務でのIT活用は殆ど進んでいないように感じます。一方で欧米の先進企業はプロセス標準化をIT活用することで進めており、大きな違いがあります。 それでは何故IT活用は進まなかったのでしょうか。考察してみます。
1点目はサプライヤのITリテラシーが低いという問題です。
調達購買システムを導入したが、サプライヤのITリテラシーが低く、システム利用が拡大しない、というのは今でも多くの企業で見られる課題です。特に発注業務でもEDIの利用率がなかなか上がらずに、未だにデータと紙の両方のオペレーションを残している、もしくは購買企業側で何らかの代理オペレーションを実施している、ということが発生しています。
この課題についてはグローバル化に伴いITリテラシーのないサプライヤとの取引を減らしていく、、ITリテラシーを高める方策をとる、などの諸施策により徐々に解決されていく方向です。
2点目はソーシングプロセスでのIT活用が進んでいないこと
に関してですが、これはプロセスの複雑性とトランザクションの量が影響しています。ソーシングプロセスをサポートするITシステムはeRFXとかSRMと呼ばれサプライヤと見積のやり取り
をするツールですが、購買実行プロセスと異なり、様々な機会で業務が発生します。
例えば新製品開発のソーシング機会は部品表も作成されていない段階でも発生しますし、量産部品表が作成された段階でも発生します。間接材などは年度契約の見直しのタイミングや購買の都度にソーシング機会が発生します。このように企業や業種、仕事の進め方、対象品目によって様々な機会でサポートすべきプロセスが発生するという複雑性が高いため、その機会を
全てサポートできるITツールがない、というのが理由の一つです。
またこのようなプロセスの複雑性は高いものの、プロセスの発生頻度は購買実行業務に比べれば1/10程度でしょう。つまり回数が少ない業務であり、複雑性も高いため、ITツールを活用することによる投資対効果のメリットが見いだし難い、というのがもう一つの理由になります。
多くの企業はソーシングプロセスは未だにメールとエクセルでサプライヤとやり取りしています。またスタンドアローンで安価なオークションシステムを活用している企業もあることからもこの2つの要因が理解できるでしょう。
3点目は情報系システムの活用の遅れの原因になります。
そもそも日本企業のバイヤーは情報収集→分析→戦略策定、といった業務ができていません。(慣れていません)以前から何度か指摘してきましたが、特に日本企業のバイヤーの弱みの一つが情報を活用した業務推進です。バイヤーには社外から重要な生きた情報が集まってきますが、それを重要な情報と認識し、分析し、戦略策定し、実行する、という業務の進め方ができていないのです。未だにKKD(経験、勘、度胸)と思い込みで仕事をしています。
これではそもそも情報をためておくITシステムやそれを分析するITシステムも必要ないでしょう。このような業務推進を進めるにはツールの整備だけでなく、分析手法やその意義を理解させることが必要です。
一方でRPA,AIの活用やグローバルでプロセスを標準化しITシステムの整備や活用を進めている先進企業も徐々にあらわれ始めています。
この先5年間位のスパンで企業の調達購買力を左右する大きな要因としてITを如何に整備し、活用できるか、ということが求められるでしょう。
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2009.02.10
2015.01.26
調達購買コンサルタント
調達購買改革コンサルタント。 自身も自動車会社、外資系金融機関の調達・購買を経験し、複数のコンサルティング会社を経由しており、購買実務経験のあるプロフェッショナルです。