ラーメン店「日高屋」を運営する「ハイデ日高屋」は20,015年3~5月期に過去営業最高益をたたき出すなど元気だ。そのヒミツは、従来からのサラリーマンの「ちょい飲み需要の取り込み」にあるといわれているが、その利用のされ方も変わってきたようだ。
SankeiBiz 2015/6/15号に「日高屋の「ちょい飲みメニュー」が絶好調! 居酒屋チェーンは戦々恐々」という記事が記載された。
この日高屋の記事のポイントは「業界定義は外部環境の変化に合わせて軽やかに行うべし」ということである。「業界定義」とは別の言葉でいえば「ドメイン=自らが戦う土俵」のことだ。元々日高屋が伸びたのは、「二毛作店」というコンセプトがデフレ不景気でお小遣いの寂しいサラリーマンにヒットしたことによる所が大きい。その顧客のニーズを成功の芽と見て、「ちょい飲み」に適した餃子その他中華系つまみメニューの拡充によって取り込んだ。記事でも<。「生ビール」(中)一杯310円、「メンマ」一皿110円…など、お値頃価格でお酒やツマミを提供。これが仕事帰りのサラリーマンから猛烈な支持>とある。
ただ、「二毛作店」というコンセプトは日高屋の専売特許ではない。古くはプロントも「昼はカフェ、夜はバー」と飲み系の二毛作で長くやっている。ただ、日高屋の二毛作は完全二毛作ではなく、「夜は飲みも食いも」と、顧客ニーズに合わせて解釈を変えている点が優れているのだ。
さて、近頃といえば景気がいいと言われつつ、その実感のある人は少なく実質給与はさらに下がっている。故に、さらに安く飲みたい需要は高まっている状況だ。そこで、日高屋はSankeiBizの記事とは裏腹に、元来「ちょい飲み」という、本来の仕事帰りの「ガッツリ飲み」に対する代替品(もしくは補完的)ポジションであった「業界定義」を変更し、居酒屋と同じ「ガッツリ飲み業界」に進出して、そこでも戦おうと決めたということだ。外部環境の変化、顧客ニーズの変化を敏感に感じ取った結果である。
そもそも、記事では<「飲み会の一軒目で飲み足りなかった際に、飲みに加え、シメのラーメンも食べられるので一石二鳥」と話すのは都内在住の40代男性>というヘビーユーザーの意見も伝えられているが、昨今、店をハシゴするとい習慣は衰退傾向にあり、<「金がないときは一軒目から飲み会用に使ってしまう」>という30代の男性の意見などが特徴的であろう。
となると、たまらないのは< 居酒屋チェーンは戦々恐々>と記事にあるような、旧来の居酒屋チェーンだ。日高屋に攻め込まれ、苦戦を強いられることになる。業界定義をさらに細分化して「専門居酒屋」化したチェーンなら互角に戦える、というよりは戦いを回避して影響を免れることができるが、特徴がない旧来の総合居酒屋は、「飲むにはいいが、食事メニューはイマイチ」という弱点を突かれ、日高屋にさらにパイを奪われることになるはずだ。生き残りのために総合居酒屋が専門性を出し、前述のように各々の得意領域に「業界定義」を細分化することが加速することにもつながるだろう。
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外食産業
2015.07.29
2015.09.03
2015.11.17
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。