ミツカンの納豆戦略にマーケティングの神髄をみる

2008.02.06

営業・マーケティング

ミツカンの納豆戦略にマーケティングの神髄をみる

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

ミツカンといえば200年の伝統を誇るお酢のメーカー。しかし、納豆の世界で実はマーケティング戦略の王道ともいうべき戦い方でトップを猛追しているのだ。

■クープマンも見抜けなかった例外

 ランチェスター戦略の研究者、B.O.クープマンが提唱した、クープマンの目標値というものがある。それは市場シェアをどれだけ獲得すれば、どのようなポジションとなれるかを示している。
 41.7%:安定的シェア。不測の事態がない限り、競合からの逆転や、新規参入によってトップが奪われることがないポジション。トヨタ自動車が国内販売シェア40%にこだわるの理由とも言われている。
 10.9%:市場認知シェア生活者が自ら思い出せる(純粋想起)ギリギリのレベルのシェア。競合から存在を意識されるボーダーライン。
 しかし、この数値はあくまで参考値であり、例外もあり得るという事例が存在する。それは「納豆」の世界。「おかめ納豆」ブランドを持つタカノフーズ。「金のつぶ」ブランドのミツカン。シェアは約40%対約13%。クープマンの目標値からすれば圧倒的なポジションの違いだが、ミツカンはギリギリのボーダーなどとは考えられない凄みを持っている。

■強烈なチャレンジャー ミツカン

 フィリップ・コトラーは「市場ポジションに応じた戦い方」を四類型にまとめた。4つのポジションとは「リーダー」「チャレンジャー」「ニッチャー」「フォロアー」であり、先のクープマンの目標値と合わせて考えればリーダーはタカノフーズ、チャレンジャーがミツカンということになる。
 リーダーは強者故の“やりたい放題”が可能だ。つまり、全方位的にあらゆる戦略を行使する。それに対し、チャレンジャーは差別化でリーダーに挑む。このチャレンジャーたる戦い方をミツカンは徹底して行っていることがわかる。

■ミツカンの差別化戦略はターゲティングとニーズ適応がキモ

 納豆といえば、そのにおいと糸をひくねばりが特徴だ。ねばりがなければ納豆とはいえないが、においには好きずきがあるだろう。筆者は無類の納豆好きだが、食べているときはともかく、食後に口中からいつまでも消えないにおいには少々辟易することがある。そんな納豆ヘビーユーザーのニーズを見事にすくい取ったのだ。2000年4月に発売された「金のつぶ・におわなっとう」。
 ニーズとは理想とする状態に対する不足状態を表すものでもある。そしてそのギャップを埋めるための手段として対価を払う対象物がウォンツだ。「におわなっとう」は見事にそのギャップを解消している。ターゲットはあくまで「においを気にする納豆ヘビーユーザー」なのだ。「納豆を食べられない人」ではない。食べられない人に提供しても、「におわないから食べてみよう」として消費される量はたかがしれている。ニーズギャップを解消されたヘビーユーザーの消費量に注目した点がターゲティングの秀逸なポイントだといえるだろう。ニーズを深掘りし、適切なターゲティングを行う。マーケティングの要諦をおさえた展開だ。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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