自分の能力適性と仕事内容がマッチしないというのは、実は「小さなミスマッチ」です。中長期のキャリアで気にかけるべきは「大きなミスマッチ」です。
私は仕事柄、いろいろなところでキャリアの相談を受けます。大きなミスマッチに悩む人も少なからず知っています。
〇「とにかく売れ筋の競合他社品を真似て開発し、そこより安くして売ればいいという戦略。コストを下げるためには身体に悪い素材を使ってもよしとする組織の風潮。私はそうした企業体質にいつしかアレルギーを感じるようになった。そして自社製品を一生活者、一親として買いたくない気持ちになっていた。でもその方針の下で開発業務はしなくてはならない」(食品メーカー・商品開発担当・30代女性)。
〇「パソコン画面の数字を一日中ながめ、キーボードで売買の指示を出すだけ。多額のカネが動く。商品を生産する現場の音も臭いも、人間の様子も全くないディーリングルームで、胃をキリキリさせながら日々の仕事を一種のゲームとして繰り返してゆく。若いころはそれが刺激的で面白いと感じていたときもあったが、いまでは自分が正常な人間でなくなると思いはじめた」(商社・資源トレーディング担当・30代男性)。
〇「女性マネジャーになって、女性のしなやかな発想や柔和な理念をビジネスに生かしたいと思ったが、結局、ビジネスは戦争の世界なんだなということをいやというほど知った。駆け引きやら政治的根回しやらに長けることが重要だったり、モノやカネを集める画策を四六時中考えないといけない。そうしたことは、私個人の資質、一女性の特性と、根本的に違っているように感じた。有能な女性でも管理職になりたらがないのは、意志の問題ではなく、そういう根本的な違和に気づいているからなんだろう」(金融会社・マネジャー・40代)。
これらの人たちは、みな能力のある方たちです。「できること」をどんどんこなしてきて、周囲からの評価も高くなってき、成長もしてきた。しかし、その仕事内容は必ずしも、心の奥底から湧いてくる「したいこと」ではない。そして、組織のやり方・考え方は、自分が根っこに持っている仕事観や事業観、人生観とますます乖離してくる。そして中には、そうした大きなミスマッチによるストレスを穴埋めするかのようにボランティア活動に走る人も出てきます。
30代以降、大きなミスマッチに陥りやすいのは、有能で真面目で、働く目的にセンシティブな人です。その人たちは「できること」がたくさんあるので、会社の要求に応じて、ついつい「できること」を第一にして仕事をこなしていくわけです。しかし、歳とともに、自分の内にある地金(じがね)ともいうべき性分・根っこにある価値観が出てきます。その地金が組織の命じる仕事内容や価値観と親和性があればハッピーですが、そうでなかったときには深い苦悩が生じることになります。
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2009.10.27
2010.03.20
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。