職場のウェルビーイングを考える (1) - 人を活かし、組織も活かす

画像: おおばやしあや

2015.11.20

組織・人材

職場のウェルビーイングを考える (1) - 人を活かし、組織も活かす

おおばやし あや
SAI social change and inclusion 代表

12月よりストレスチェックが義務化されますが、メンタルのプロでない我々は、一体どのように職場の「心の問題」に取り組めばいいでしょうか。フィンランドでソーシャルサービス(福祉の一環)を学んできた筆者が、少し視点を変えて考えてみることを提案します。

well-being(ウェルビーイング)…より良く生きるという概念

私は、今後の日本には必ずwell-being(ウェルビーイング)という考え方が必要になってくると思っています。

well-beingは欧米や、特に今いる北欧では非常に一般的な言葉ですが、日本ではまだそれほど良く知られていません。辞書を引くと、福祉、幸福、福利、健康といった訳が出てきますが、「福祉(welfare)」よりもより広義に、全ての人がより良い人生を全うできることを指します。

私の学んだのは、大枠では「社会意識を持ち、抑圧されているクライアントと実際に接し、彼らのウェルビーイング向上を手助けすることを通して、最終的にはより良い社会の実現を目指す」というような幅広い学問です。これを学んだ学生は、カウンセラー、ソーシャルワーカー、様々な福祉施設の職員、国連やNGO・NPO職員、社会起業家まで広く就業の機会があり、これらの共通点は「社会問題に取り組む仕事」と言えます。

このウェルビーイング特徴を、馴染みのなかった日本育ちの自分が言うならば、「趣味などの文化的活動から、うつ病の防止やケアまで、ハンディがあるなしに関わらずどんな人でも自分の人生をより健康に豊かにする権利があり、実現されるべきだ」という概念であろうと思います。

福祉は高齢者や障がいを抱える方のためのものと認識されがちですが、ウェルビーイングは「誰にでも」というのがポイントで、自分はそこそこ健康だからと、サポートを受けることに引け目を感じる必要はありません。簡単で当たり前のようでいて、実現はとても難しく、しかし「人生は自分のもの」なのですから、より良い形で人生を全うするというのは、誰にでも等しく与えられた、実行されて当然の人権のはずです。

そしてそれが実現されていない状況が、個人の心の問題から、差別問題、社会問題といった大きくてシリアスな現象を生み出しますし、逆にその問題に苦しめられている個人のウェルビーイング向上を目指すことで、社会問題も改善に向かう、というものです。


ストレスチェックが義務化されることで、もちろん良い面もあるでしょうが、人の心の問題が数値化、形骸化され実を持たなくなることへの懸念もあります。人の心というのは、ご存じのとおり、簡単なものではありません。ハイやりましょう、ハイできた、というものでは決してないのです。

メンタルに取り組む、うつ病予防やケアに取り組む…というのは、専門家でない我々には、時に一体どこを目指して何をしたら良いかわからないところがあります。しかし、ウェルビーイング…「より良く在る、より良く生きる」という、人として当然のことに職場でも正面から取り組むこと、「人を活かし、組織も活かす」という視点で進めていくと決めれば、それほど難しくならないのではないか、と考えます。

例えば、「より精神的に落ち着く環境」「うつ病を緩和できる方法」という視点で改善点を探すのではなく、「この人がより活きるには」「自分たちが快適だと思う、安らぐのは」という視点で、仕事や環境について、状況を見据えつつ内部から改善を考えてゆくやり方です。

労力と時間を無駄にしないためにも、「(義務だから)やらされてやる」のではなく、「成果の向上を目指す組織として主体的に行う」という視点で、ストレスチェックも含め、職場のウェルビーイングの実現を実行可能なレベルで考えていってはいかがでしょうか。


次回も引き続き、ウェルビーイングについて考えていければ…と思っています。ここまでお読み頂き、ありがとうございました。


関連記事:職場のウェルビーイングを考える (2) - 「今、できること」に焦点を当てる / (3) - 自己表現の機会を / (4) - 「フェアな組織であること」 / (5) - スイミーで考える「犠牲にならない」フェアな社員とは

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おおばやし あや

おおばやし あや

SAI social change and inclusion 代表

Well-beingの実現をめざす起業家として、日本、フィンランドで主に労働者福祉分野で講師や研究開発者として活動。フィンランド国家認定ソーシャルワーカー。 「個と全を活かす」をテーマに、コミュニケーションツール開発や、多くの関連ワークショップ、研修を全国のさまざまな大学、企業、団体さまにて提供させて頂いています。

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