往年の名レスラー、ニック・ボックウィンクル氏が亡くなりました。現役時代熱狂的に好きでしたが、いわゆるダーティ・チャンプとして有名で、汚い王座防衛でノラクラするレスリングに、高校生だった私は人生を学びました。そう、正に「汚い仕事」という、大人の人生を教えてくれたのです。
有無を言わさず強いものが勝つのであれば、私はここまでプロレスに惹かれなかったと思います。世界最強の軍隊・アメリカ軍がベトナム戦争で負ける。地上最強陸軍である旧ソ連軍がアフガンのムジャヘディンに負けることはなかったのです。ここに戦略の妙味があり、単純な戦力差だけではない戦いの真髄を感じます。
プロレスはビジネスであり、演劇や映画と同じエンターテインメントです。総合格闘技もその説得性の頂点として強さだけにフォーカスできたのは、プロレスの土壌をうまく利用できたからだと思っています、プロレスの存在抜きに総格の隆盛はなかったと。
・ワルツかジルバ
主役/ヒーローに枷を与え、徹底的に苦しめたあげくのハッピーエンドはドラマの基本です。プロレスはそれを忠実に実現し、ダーティチャンプが客のヒートを煽り、結果みじめな敗退をする。しかし汚いことに王座は持ち帰られえしまい、全米で地元のヒーローの人気を高め、結果として興業の収入を上げ、そしてそれを独り占めすることなく、団体全体に行き渡らせること、それがチャンピオンの仕事なのです。
相手(地元のヒーロー)がワルツという戦い方をするなら、それを受け、受けた上できっちり決着をつける。ジルバで行きたいのであれば、それも受ける。どんな戦いも受けられることがチャンプだという、父の教えを忠実に実行したのがニックなのでしょう。しかし人間そこまで仕事に徹せられるのでしょうか。自分が目立ちたい、すべての関心を自分に向け、会場中からの声援を浴びたいという原始的欲求はないのでしょうか。
職人の仕事は決して世間的賞賛や名声を伴うとは限りません。見る人は見ている。価値のわかる人はその価値を評価する。そんな後姿に、とてつもなくあこがれを感じました。「大人」の背中だと思いました。組織は自分一人の者、リーダー一人のものでなく、それを構成するたくさんの人たちの支えと、特に汚い仕事をも担う人がいて初めて成り立つのが組織なんだと思います。奇しくもニックとも対戦した故・ラッシャー木村氏とともに、人生を教えてくれた国際プロレスでした。
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2015.07.17
2009.10.31
株式会社RMロンドンパートナーズ 東北大学特任教授/人事コンサルタント
芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。