「能力がありながら、能力がひらけない」人がいる。それは能力を一段上から司る能力、すなわち「メタ能力」が発揮されていないからである。能力を高次元へ上げていくために必要なことは……
◆演習「モザイク作文」~自分の意図のもとに要素を編成する
〈ワーク指示〉
□ワークシート〈P〉の右上にある四角枠の中に、いまあなたが全く適当に思いついた単語(名詞)を書き入れてください。
□次に、ワークシート〈P〉の他の空欄に次の言葉を埋めてください。
・要素A→「海」 ・要素B→「幸福」 ・要素C→「夏の日」 ・要素D→「中華料理」 ・要素E→「甘い」
□現在、ワークシート〈Q〉のような状態になりました。では課題です。要素A~Eまでの5つの要素を盛り込んで、あなたが先に記入した単語に帰結するよう物語を作ってください。(時間は10分間)
さて、この課題に対し、どんな物語をこしらえることができただろうか? 実際の研修で出てきた回答例を紹介しよう。
【作例:Kさん・女性】
○記入単語=「机」
○桜の花が「甘い」香りを放つ4月、私たちは入学した。みんなで「海」に行き、大騒ぎをした後、横浜に立ち寄って本格的な「中華料理」に舌鼓を打った。そんな「夏の日」もまるで昨日のよう。そして秋が過ぎ、冬が過ぎた。「幸福」な思い出をいっぱい詰め込んで、きょう、私はこの教室、この「机」ともお別れだ。
【作例:Tさん・男性】
○記入単語=「クルマ」
○「中華料理」の丸テーブルを囲みながら、きょうは我が家の家族会議だ。今年の「夏の日」の旅行は何処に行こうか。「海」にも行きたい、山にも行きたい。温泉にも浸かりたい、キャンプもしたい。そんな「幸福」プランはいろいろ出てくる。しかし、現実はそんなに「甘い」ものではない。なぜなら我が家は先月、「クルマ」を売っ払ったばかりだった。
要素AからEは、まったく脈絡のないばらばらなものである。しかし、ひとたび、「机」なり「クルマ」なり、帰結点を定めるとどうだろう。その瞬間から、これら単体的な要素に意味合いや流れを持たせようと意志的な努力がはたらく。そして、何かしら物語が完成すると、各要素はあたかも最初からその物語のために用意されていたかのように思えてくる。つまり、5つの要素は、当初、単体として分断されていたのだが、私たちは物語をつくる意図のもとで、それらをあるまとまりとして機能させ、つながるように完成させたのだ。
◆「単に~ができる」と「成果が出せる」は別物
これを実際の仕事上のことに引き戻して考えてみよう。私たちは日ごろ、業務処理や仕事体験を通して、さまざまにⅠ次元能力を身につけていく。だが、俗に言う「仕事ができる人」というのは、そうした単体の能力要素をたくさん持っている人ではない。どんなプロジェクト、どんな職場、どんな立場を任せられても、内面に蓄えたⅠ次元能力を自在に組み合わせて、着実に成果を出すという人間である。上の演習で言えば、どんな帰結ワードを振られたとしても、見事な作文を仕上げられるということだ。これがまさに「メタ能力Ⅱ」に優れている状態なのである。
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【働くこと原論】 強い仕事をするための肚づくり
2013.11.04
2013.09.05
2014.01.17
2014.01.08
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。