これまで語られることのなかった。「王様」コスト削減。調達・購買の世界に新たな風が吹こうとしている。それはすべてを破壊しつくすコスト削減手法ではあるのだが--。
ほんとうに、さすがです。
でも、彼の怒りは収まらないようです。「そもそもなあ、値上げしたいときは、購買担当者さんにバレないように、こそっと見積書を書き換えるものなんだ! または、購買担当者さんを居酒屋に誘って、なし崩し的に値上げを認めさせるんだ! そんなことも知らないのかッ!」
そして、まだ購買王さまのスピーチは続きます。「ということでサプライヤーのみなさま、私たちの意気込みがわかっていただけたと思います。これからはスピードの時代です。意思決定も素早くし、サプライヤーのみなさまと時代の変化にスピーディーに対応したいと願っております」。すると、ひとりのサプライヤーが手をあげました。「王さま、そんなことよりも、昨年の巨大案件はどうなったんですか? 担当者さんからは『もうちょっと待って』と言われて半年が過ぎました」。
王さまは、その質問には即答しました。「いや、実はその巨大案件こそ、われわれの調達改革のシンボルなのです。実は、これまでサプライヤーさん決定までに30プロセスを費やしていました。つまり、30人の承認者がいたわけです。しかし、その案件からはなんと29プロセスに減らしました!」。すると、王さまの隣にいた購買家来が、王さまに耳打ちしました。「もう28プロセスまでいっています」。王さまは自信満々に「このスピーディーさ。これをみなさまにも見習っていただきたい」。
すると、こともあろうことか、違うサプライヤーが王さまに怒鳴り声をあげました。「こっちには、『見積りを早く出せ!』っていうくせに、そちらの意思決定はいつまでたってもチンタラしてるじゃないか! 1プロセス減ったくらいで、何がスピーディーだ!」。これは謀反に近い、あってはならないことです。まわりのサプライヤーたちは、その謀反者を非難しはじめました。「王さまがせっかく改革の成果を説明しているのに、お前はなんてことをいうんだ!」「そうだ! どうせ、調達改革なんて、たいしたことないって知ってるくせに、今さら何をいっている!」「この王さまだって、あと3年で定年なんだ! たいしたことができるはずがないだろう! それくらい理解しろよ!」「調達王国が、一つでもプロセスを変えたんだ。それだけでも賞賛ものじゃないか!」。罵声は続きました。
ということで、謀反を起こそうとしたサプライヤーは殴打され、消えていきましたとさ。
めでたし、めでたし。
王さまはスピーチが終わると、ふう、とため息をつきました。
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
関連記事
2014.02.01
2014.02.01
未来調達研究所株式会社 取締役
大阪大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務に従事。未来調達研究所株式会社取締役。コスト削減のコンサルタント。『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)など著書22作。