いま注目されている調達・購買。この分野で孤立無援の闘いを挑み、成功した一人の男について紹介します。
あるいは、半導体が中に組み込まれているものだって多くはアジア品だ。それもカウントしろ!」。そこで購買平民たちは、まったくサプライヤーや製品を切り替えることなく、書類上のみであっという間に「海外輸入比率7割」を達成してしまいました。
「ほら、意外に海外輸入品って多いだろう?」と購買係長は自慢気です。
めでたし、めでたし。
すると、ある購買平民は言いました。「でも購買係長、さすがにコスト削減だけはできないんじゃないですか? 偽造した調達改革では、コスト削減効果は出ませんよね……」。すると、これまた購買係長は自信満々です。「お前、ウチの国で何年働いているんだっ! この国ほどコスト削減効果試算が適当な国はないじゃないかっ! コスト削減効果なんてこちらの申告値をそのまま使うだけだ! だから、購買平民には、コスト削減効果を、『最初の見積り』から『最後の見積り』を引いたもので計算させればいいんだ! そうすれば、効果なんてすぐ出たことになる。そうだ、サプライヤーからの値上げ申請を抑制した金額も、コスト削減効果に加算するのも忘れるな!」
そこで購買平民たちは、通常の業務をなんら変えることなくあっという間に「コスト削減3割」を達成してしまいました。なかには意図的に最初の見積りを高めに出すようにサプライヤーに依頼した購買平民もいたようですが、誰も気にしませんでした。
めでたし、めでたし。
しばらくすると、王様はヘンなことに気づきました。サプライヤーは減っている、海外輸入比率も高まっている、コストも削減されている。でも、国の財政だけはまったく改善しないのです。どうしたことか。王様は思いました。「そうか、お金はきっとブラックホールに吸い込まれているんだな」と。そうです。今年は2010年。キューブリック『2010年宇宙の旅』よろしく、きっとどこかに消えていったのです。
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上記はもちろん、仮想の国の物語である。昨今、メディアで調達・購買改革の記事を見ることが多い。直に会話をする限り、ほんとうの調達・購買改革を目指しているところは少なくない。ただ、一方で多くの企業では、調達・購買改革は「効果がある」ものの、なぜか全社の業績には連動しないという奇妙な「事件」が起きている。まさか、とは思うが、このような購買係長が<活躍>していないことを祈る。
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2013.10.15
2013.11.27
未来調達研究所株式会社 取締役
大阪大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務に従事。未来調達研究所株式会社取締役。コスト削減のコンサルタント。『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)など著書22作。