スターバックスが日本に初上陸したのは1996年。今でも営業している銀座・松屋裏の二階建て店舗からスタートした。コーヒーの香りを損なわないために全席禁煙。オシャレなBGMと少しゆとりのある店内空間。スターバックスの店内といえばどんな風景を思い出すだろうか。
筆者は原稿を書くときに気分転換のため、事務所を出てカフェを利用することも多い。
値段が高い割には店員が水を頻繁に持ってくるので落ち着かない旧来型の喫茶店。たばこ臭くて狭くて落ち着かないドトールなどの低価格カフェ。それに比べれば、スターバックスに代表される「シアトル系」といわれるカフェは落ち着く。タリーズ、ブレンズもいい。だが、やはり並んでいるとスタバを選んでしまうのはブランドが刷り込まれているからだろうか。
今では少々手狭な点も多くなってしまったが、スターバックスといえば、コーヒーの味わいだけでなく、ゆったりとした店内空間も商品のうちだ。そこではおしゃべりをする人以上に、読書や勉強、仕事というような個々人の時間を過ごしている人々が多いことも特徴だ。その風景はこの10年あまりで完全に定着したといっていいだろう。
と、思っていたらそうでもない場合もあるようだ。
「ここ空くのかい?」原稿が一区切りしてそろそろ退席しようかと、マグカップのさめた最後のコーヒーを口に含んだ時声をかけられた。
60代半ばとおぼしきの白髪の男。ベージュのブルゾンにウールのパンツ。手にはセカンドバック。あまりおしゃれな感じはしないが、カジュアルさ加減はリタイヤ組か。
「あ、はい。」ちょうど席を立とうと思っていたところなので、返事をして片付けを始める。パソコンをシャットダウンしながら、資料をまとめ、アタッシュケースにしまおうと知る。
ふと男を見ると、目が合ったのを合図にするように「早くしてくれないか。こっちは時間がないんだ」と言う。
せっかちなやつだなと思い、資料をしまうも、パソコンをスリープではなくシャットダウンにしてしまったので少し時間がかかってしまう。
すると男は追い打ちをかけてくる。「何をパソコンなんかやっているんだ。ここはコーヒーを飲むところだろう。人の迷惑を考えろ!」。
ちょうどパソコンの電源が落ちたことだし、無用なトラブルを避けたいので黙って席を立ったが、どうにも間尺に合わない気持ちで一杯になった。
ふと考えると前回のトラブル、新幹線で弁当を広げた際に、「食べ物のにおいをさせるな」と言われたことと通底する部分を感じた。
今回のスターバックス。男は「スターバックス(喫茶店)はコーヒーを飲むところであり、パソコンをするところではない」という主張だ。前回の新幹線のビジネスマンは「新幹線は食事をするところではない」という主張。
しかし、周りを見回せばスタバでパソコンを開いている人間は他にもたくさんいる。新幹線車中でも駅弁を開いている人は数多い。
本来的には喫茶店は「コーヒーを飲む空間」、列車は「移動のための空間」である。しかし、原理原則だけではなく、世の人々は時と場合に応じてcommon senseを形成し、お互いに許容しあって暮らしているのが現実だろう。それは新幹線のビジネスマンも、スタバの初老の男にもわかるのではないだろうか。だとすれば、「俺の周りではやるな」ということか。
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2007.12.13
2007.12.14
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。