東洋アルミエコープロダクツ(株)の「石焼きいも黒ホイル」は2009年の発売から累計販売本数が100万本を超えるヒット商品です。 石焼きいも専用というサブカテゴリーを創造したことで同製品のオンリーワン化を達成し、製品価値を高めることに成功しています。
石焼きいもが美味しい季節になってきましたね。
さて、アルミ箔の片面を特殊印刷で黒くしてある
「石焼きいも黒ホイル」(以下、黒ホイル)
は熱吸収が良いため、食材にすばやく火が通ります。したがって、通常のアルミホイルに比べて焼きいもが短時間で出来ます。また、さつまいもの麦芽糖が増えて、やはり通常のアルミホイルを使用した場合よりも甘みが増すのだそうです。
黒ホイルを使えば、すばやくおいしい焼いもができることから主婦層に受け、通常のアルミホイルの約8倍も高い店頭価格でありながら、好調に売れているのです。
東洋アルミの最初の黒ホイル製品は07年に発売されています。
その製品名は
「ホイルブラック」
でした。
しかし、あまり売れませんでした。
同製品の価値(強み)として、
・「熱吸収が良い」(機能価値)
・「短時間で調理ができる」(便益価値)
といったことは訴求していたようですが、消費者にはピンと来なかったからでしょう。
実際、ありふれた日用品、すなわち
「コモディティ」
とみなされているアルミホイル製品で、
・機能価値
・便益価値
を訴求されても心には響かないものです。
「どうせ、既存製品とたいして変わらないだろう」
という固定観念が先に立つでしょうし、わざわざ割高な製品に手を伸ばす気にはならない。
しかし、09年に用途を
「石焼きいも」
に絞って明確化した製品を発売したところ、一転、ヒットにつながったのです。
さて、マーケティング戦略的に見ると、
「石焼きいも黒ホイル」
というネーミングは、汎用的な用途に使われる既存の
「アルミホイルカテゴリー」
において、新たに
「石焼きいも(専用)」
というサブ(下位)カテゴリーを創造したことを意味します。
既存のアルミホイルカテゴリーは、コモディティ化が進んでおり、競合が多いため価格競争に陥っています。しかし、製品名称を通じて
「石焼きいも用ホイル」
と言えるサブカテゴリーを生み出すことで、実質的に競争のない
「オンリーワン」
な存在を確立。
このサブカテゴリーにおいては、同製品の代替品がない、すなわちコモディティではないため、高価格でも売れるというわけです。
サブカテゴリー創造はわかりやすく言い換えると
「土俵を別のところにつくる戦略」
です。
・熱効率が良い(機能価値)
・短時間で調理ができる(便益価値)
といった価値を打ち出すことは、競合他社と同じ土俵での「規格競争」をしているにすぎません。
黒ホイルの場合、
「石焼きいも」
という用途に絞ることによって、既存製品とは別の土俵に競争の場をつくった。
そして、少なくとも現時点では
競争しないで勝つ状況
を創造することに成功したというわけです。
多くのカテゴリーにおいてコモディティ化が進む現在、競争のいない土俵を新たに創造する
「サブカテゴリー創造によるオンリーワン戦略」
はひとつの打開策として有効であることは間違いないですね。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー
これからは、顧客心理の的確な分析・解釈がビジネス成功の鍵を握る。 こう考えて、心理学とマーケティングの融合を目指す「マインドリーディング」を提唱しています。