マズローの欲求段階説において、最高次に位置づけられるのは、「自己実現の欲求」でした。そして、人の行動が主として「自己実現の欲求」によって動機づけられている人、すなわち、自己実現欲求に突き動かされて日々の生活を送っている人々のことを「自己実現人間」と呼びます。
一方、自己実現欲求は、こうした欠乏がある程度満たされたからこそ優勢になってくる「成長欲求」。端的にいえば、「より良き人間になりたい」「自分の技など、強みをとことん極めたい」といった「内面的な欲求」に突き動かされているのです。
すなわち、「自己実現欲求」は、外部から満たしてもらえるようなものではない欲求であり、また、食欲のように満腹になれば満たされるようなものではない、際限のない欲求です。
メジャーリーガーのイチロー選手もまた、自己実現欲求に動機づけられている「自己実現的人間」であることは間違いないですね。彼は、とことん自分の持てる技術を高め続けようとしています。安打を何本打つとか、打率4割を超えるといった数値や記録を軽視しているわけではありませんが、そうした通過点に過ぎない結果よりも、「成長させ続けたい」という欲求が根底にある。だからこそ、どのようなときでもフラットな心境、つまり「自然体」でいられるのでしょう。
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3.課題中心的である。
“彼ら(自己実現的人間)は、自己中心的というよりも、課題中心的なのである。一般に、彼ら自身が彼らの問題となることはなく、自分のことで気をもんだりしない。”(『人間性の心理学』P238)
“彼らはけっして木を見て、森を見失うということはないように思われる。彼らは、広くてちっぽけでない、普遍的で偏狭でない、また世紀単位であり、瞬間的でない価値の枠組みの中で仕事をする。”(『人間性の心理学』P239)
自己実現的人間は、「私利私欲」も多少はあると思いますが、それ以上に、世界、社会といった、大きな枠組みの中での何らかの使命や達成すべき義務のようなものを感じて、行動していると言えます。
自分のためではなく、自分の外にあるなんらかの「課題」(おそらく様々な社会的問題)の解決に取り組むことを第一関心事としているのが、自己実現的人間です。他者・社会に「貢献したい」という欲求が強いのが、自己実現人間と言えるのかもしれません。
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自己実現的人間の特徴をひとことでまとめるなら、
「純真・素直で、成長欲求が強く、使命感を持っている人」
となるでしょうか?
さて、先ほど、自己実現の欲求は最高次の欲求であり、低次の欲求がある程度満たされてから出てくる欲求であると申し上げました。
しかし、ひょっとしたら、上記の特徴のような行動を無意識に、あるいは意識的に取れるような人間こそが、結果的に食料や安全、愛、所属、尊敬、承認といった下位の欲求を満たすことができるのではないかと、個人的には感じるのですがいかがでしょうか?
『人間性の心理学-モチベーションとパーソナリティ』
(A.H.マズロー著、小口忠彦訳、産能大出版部 改訂新版)
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2012.10.02
2015.07.14
有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー
これからは、顧客心理の的確な分析・解釈がビジネス成功の鍵を握る。 こう考えて、心理学とマーケティングの融合を目指す「マインドリーディング」を提唱しています。