『人間性の心理学』に基づくマズローの欲求段階説に対する大きな誤解を解く。
マーケターの皆さんが最もよく知っている心理学説は、「マズローの欲求段階説」でしょう。さて、この欲求段階説に対する大きな誤解(間違った思い込み)の一つは、「下位の欲求が100%満たされないと上位の欲求は現れない」というものではないでしょうか。しかし、現実にはそうではないこと、マズロー自身も上記のようには主張していないことを、マズローの著作『人間性の心理学』に基づいて解説しましょう。
まず、欲求階層説とは何かについて復習です。
基本的に、以下の5段階が基本的欲求として示されています。
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1 生理的欲求(食物、水、空気、性等)
2 安全の欲求(安定、保護、恐怖・不安からの自由等)
3 所属と愛の欲求(集団の一員であること、他者との愛情関係等)
4 承認(自尊心)の欲求(有能さ、自尊心、他者からの承認等)
5 自己実現の欲求(自分がなりうるものになること)
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そして、一般的には、1番目の「生理的欲求」を最下層に、5番目の「自己実現欲求」を最上層においた「ピラミッド図」(もしくは「台形図」)で、階層(上下)関係が示されます。
こうした階層図を見ると確かに、5種類の欲求は「下から順番に満たされていくもの」という誤解をしてしまうのも無理はないかもしれません。しかし、マズローは次のように説いているのです。
“我々の社会で正常な大部分の人々は、すべての基本的欲求にある程度満足しているが、同時にある程度満たされていないのである。”
そして、平均的な人のそれぞれの満足度合いについて、マズローは独断的と言いながら、以下の数字を示しています。
1 生理的欲求:85%
2 安全の欲求:70%
3 所属と愛の欲求:50%
4 承認の欲求:40%
5 自己実現の欲求:10%
社会としてある程度安定した状況にある国に住む人々、私たち日本人もそんな幸運な状況にある人々だと思いますが、上記はある程度納得感のある数字ではないでしょうか?
そもそも、マズローは5つの欲求について、これらが欠乏したときに優先して満たされるべきもの、つまり「より優勢なもの」の順番を示したのです。
例えば、「食事」と「安定」が両方欠乏している状況では、生理的欲求がまず優先されるでしょう。(だからといって、食欲が100%満たされなければ、安定を求めないというわけではないことはおわかりかと思います。)
また、「安定」と「愛情」が両方欠乏している状況では、多くの場合、「安定」が優先されます。(とはいえ、どんな状況であれ、安定だけでなく、ある程度愛情も求めるものでしょう)
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2015.07.17
2015.07.21
有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー
これからは、顧客心理の的確な分析・解釈がビジネス成功の鍵を握る。 こう考えて、心理学とマーケティングの融合を目指す「マインドリーディング」を提唱しています。