6月1日付けの日経新聞の経済教室に興味深い記事が掲載されていました。 明治大学教授の田中秀明氏の「政府調達改革の視点」という論文です。
二つ目の問題は「調達計画の把握」です。
この点も多くの民間企業で課題になっています。
田中教授は論文の中で“各省庁が何をどれだけいくらで購入しているか分からない”と述べていますが、実はこれはあくまでも結果でしかありません。
調達をする上で重要なのは「何をいくらでどれ位購入したか?」よりも「何をいくらでどれくらい、いつ購入するか?」が重要になります。調達計画は各省庁横串で年間の計画が把握できれば当然のことながら「まとめて契約しよう」ということにつながります。それによってボリュームメリットを追求するのが集中購買なのです。「調達計画の把握」を省庁横串で行う専門組織を作り、そこに人材を配置すれば自然と専門的な人材は育っていきます。
つまりこれらの問題は「調達計画の把握」ができないこと、やるための仕組みができていないこと、が根源的な問題と言えます。
最後の問題は田中教授も改革案として触れていますが、現状の法令や仕組と共に「意識」の問題です。「各省会計課長の仕事は単純化すれば、予算獲得と法令順守だ。」とあるように、政府調達で留意すべき点は獲得した予算をつつがなく消化すること、また誰からも指摘されないようにいかに問題なく公平な選定を行ったか保障すること、というコンプライアンス面です。つまりモノを買うということは予算を使うという「権利」と捉えられているのです。「調達」は実は難しい業務です。なぜなら「調達」しなければ生産活動や事業活動は止まってしまうからです。昨年の東日本大震災やタイ洪水がもたらした調達難は企業の調達力が企業経営や収益に大きなインパクトを与えることを改めて浮き彫りにしました。つまり調達は「権利」ではなく「義務」なのです。
「義務」であれば良いモノをより安く長期安定的に調達することは極めてあたり前な話です。
こう考えると必ずしも案件の都度公開入札を行うことが最適な調達なのか?
疑問を持つことは尤もなことなのです。
これらの3つの問題をクリアするために田中教授は短期的には各省の次官に効率的な買いモノができているかの責任を付与せよ、と述べています。民間では昔の購買課長がその役割を担っていました。
若手のバイヤーがこの価格でこのサプライヤに発注したいと決裁案を出すと厳しく文句をつける、「何でこの値段なんだ?加工費が何でこんなに高いんだ?現場見たのか?」から始まり、交渉して価格が下がれば「何でこんなに安いんだ?こんな値段でサプライヤを泣かせていないか?」と言われる。こういう経験を昔の民間バイヤーは誰もが一度は経験しています。
調達に係る効率的かつ効果的で最適な決定にかかる責任を持った役割を担う、うるさ型の人間、正に「目利き」の能力が高い人、こういう人が今求められているのではないでしょうか?
最近は民間でも、このような若手に嫌がられる職人的なマネージャーがいなくなってきました。そういう意味では政府調達においても民間においてもこういう「目利き」役の存在の重要性を認識する必要性があると考えます。
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2009.02.10
2015.01.26
調達購買コンサルタント
調達購買改革コンサルタント。 自身も自動車会社、外資系金融機関の調達・購買を経験し、複数のコンサルティング会社を経由しており、購買実務経験のあるプロフェッショナルです。