「青山フラワーマーケット」の「売れ続けるしくみ」を読み解く

画像: okinawanさん

2012.03.08

営業・マーケティング

「青山フラワーマーケット」の「売れ続けるしくみ」を読み解く

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 街中で花屋の店先を見ると、ふと心が和む。無論、その花を買って帰れば家の中がぱっと明るくなる。しかし、花ビジネスの舞台裏は熾烈なようだ。日本経済新聞のコラムから読み取ってみよう。

 3月5日付、ベンチャー欄の「起業の軌跡」というコラムは首都圏を中心に生花店「青山フラワーマーケット」を77店舗展開するパーク・コーポレーション創業社長の井上英明氏の話だった。
同氏はトライアスロンのアスリートであり、そのレースやトレーニングとビジネスの関係などが書かれているが、そこはとりあえず軽~くスルーさせていただく。

 記事のサブタイトルに注目だ。「生花店、回転率上げ低価格実現」とある。Facebookで同店の話題を出したら、「(業界の象徴的店である高級店)日比谷花壇は店頭を眺めるだけだが、青山フラワーマーケットは頻繁に利用する」という声がいくつも寄せられた。記事本文にある「普段使いの花」というポジショニングを見事に獲得しているのである。それは安いというイメージだけでなく、実際に「平均客単価は1500円とギフト主体の生花店に比べて3分の1に満たない典型的な薄利多売」であるという。
  「売上=客数×客単価×回転率」。安い価格で多くの客を集客し、「普段使い」という気軽なポジショニングでリピートを促進する。結果、客単価が低くとも売上は高くなるというのは道理だ。だが、「利益=売上-コスト」である。利益をひねり出す仕組みはどうなっているのか。

 「生花用の冷蔵設備を持たない」「仕入れたら1~2日で売り切り」「廃棄率は業界平均の1~2割に対してわずか3%」という情報が記事に並んでいる。廃棄率は実際には3~6割に達するという業界筋の情報を聞いたこともあるので、ロスは10~20分の1ということになる。生花店を含む原価率の高い商売で最も無駄なのか「廃棄コスト」。その業界全体が抱え込んでいる弱みにメスを入れたことが成功要因(KSF)となっているのである。

 「“客自らが花を選んで取る”というスタイルも、“きれいに咲いた状態の花をブーケにして売る”というのも魅力」というFacebookに寄せられた同店のファンの言葉も核心を突いている。

 バリューチェーン(VC)比較をすると以下のようになる。
<一般の生花店>
  仕入(未開花中心)→冷蔵庫保管→店頭受注&花束作成→売れ残り廃棄(公称10~20%)
<青山フラワーマーケット
  仕入(開花中心)→ブーケ作成&来店客のセルフPick up~花束作成→2~3日で売り切り(廃棄3%)

 同じ生花店なのにVCが全く違う。それも「売り切り」という目標を中心に据え、高回転率を実現する仕組みを作っているからだ。上記のVCがうまく廻っていくよう、現場の店長も精一杯頑張る。ナゼなら、「各店舗が置く商品は原則として、本社が推奨するリストから自由に選んでもらう仕組み」という現場裁量権が高いが、「店長はお店の利益が給料に反映する」という仕組みになっているからだ。故に、「売り切り・廃棄率極小化」に神経を尖らせることになるのだ。

 記事では「商品の回転率を徹底的に上げることで収益力を高める。それはトライアスロンで、どうにかしてタイムの短縮を図ろうとする井上(社長)のレースぶりにも似る」とある。他人と同じことをしても勝つことはできない。しかし、長続きしない奇策では厳しく長いレースでは続かない。そのポイントがビジネスにも通じているのである。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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