大学入試センターのホームページに会場の一覧が掲載されているが、試験会場は、国公立大学が241会場、私立大学381会場となっている。
今年のセンター試験では、社会の科目で冊子の配布ミスや、配布に手間取ったための試験時間の繰り下げなどがあって問題となった。影響を受けたのは7,500人を超えて、過去最大のようだ。このニュースについて、配布ミスなどが起こった試験会場をざっと見ていると、国公立の学校がほとんどであることに気づく。
センター試験は国公立だけで実施されているのかと思ってしまうが、そんなことはない。大学入試センターのホームページに会場の一覧が掲載されているが、試験会場は、国公立大学が241会場、私立大学381会場となっている。また、試験監督は、基本的に会場となっている大学の教職員が行うようである。
要は、私立大学の教職員は配布方法の変更などをしっかり把握して試験を実施できたが、国公立大学の教職員はそうではなかったということだろう。つまり今回の件は、民間と公務員の仕事に対する意識や姿勢の違いを端的に表している。
ある国立大学が開いた実施ガイダンスに、多くの教職員が欠席したというニュースもあったが、組織として機能していないとも言える。18,000円の受験料を払った人に対する姿勢、この日のために一生懸命に勉強してきた生徒達に対する姿勢はどうあるべきか、という人として実に基本的なところの問題でもある。
別の話だが、ある教育関係者に聞いたところでは、公立高校の進学実績はその地区の18歳人口に密接に関係しているという。進学実績が上がったり下がったりする原因は、私学においては学校の戦略や教員の資質や努力に関係しているが、公立においてはそのエリアの若者の人口が増えるか減るかであるそうだ。
確かに、何年か前にマンションの開発ラッシュが起こったような郊外の公立高校が、都心で子供がいなくなった昔のトップ校を追い上げている現象が、少なくとも私が住んでいる関西ではいくつもある。その教育関係者の主張は、公立学校には工夫や進化がない(ので、単純に環境に影響されてしまう)ということなのだが、センター試験のミスが国公立の学校に偏ったことと、仕事や組織に対する意識や姿勢に問題があるという点で共通しているのではなかろうか。
国立大学が独立行政法人となり、自立に向けて変わってきているのだろうし、東大が中心となって仕掛けた秋入学など改革も見え始めた。しかし今回の件は、公務員による教育の現場が何も変わっていないことを露呈したと思う。彼らは教育制度改革について案が議論されただけで、全てに強い反対の声を巻き起こし、常にその理由は、生徒のためだ、子供達に悪影響を与えるからだ、教育を悪くするからだという。
だが、今回現実に起こったことは、公務員教職員が生徒のことを考えて仕事をしていない、ということを証明した。教育において民が大切にしていることと、官が大切にしていることが大きく異なっているのである。改革の議論を表面的なものに終わらせないためには、まずはそこを明らかにするべきだろう。
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2010.03.20
2015.12.13
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。