働く“自由”があることの負荷

2011.12.05

組織・人材

働く“自由”があることの負荷

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

「自由は楽しいものではない。それは選択の責任である。楽しいどころか重荷である」とドラッカーは言った。しかし、その自由という重荷をチャンスに変えることが個人にとっても、組織にとっても、社会にとっても重要なことである。

「じゃ、尊敬する人は誰かいますか?」と訊くと、「あぁ、それじゃ、お父さん」と言う。「お父さんのどんな点を尊敬しますか?」と訊くと、「たくましいところ」と答える。「そのお父さんの尊敬する点を自分の働き方にどう取り入れられそう?」───「う、うーん。。。自分もたくましく家族を養っていきたい」と、そんな調子です。この答え自体は無垢な気持ちから出たもので悪いとは言いません。問題は、意欲を具体的に起こす思考ができなくなっていることです。

ちなみに、彼らの年次は入社3年目から5年目、20代後半とお考えください。担当仕事はすでに一人前かそれ以上にできるように育ってはいるものの、「あこがれモデル」を想い抱くことに関しては、ある割合が、こうなってしまう現実があります。私は8年前からこの種の研修ワークを取り入れていますが、「あこがれが特にない/うまく抱けない」という割合は増えている傾向にあると感じています。

◆2年間の兵役が自由への意識を目覚めさせる
「あこがれる」という気持ちは、意欲を湧き起こし、意欲に方向性を与え、他の様子から学ぶ(「学ぶ」は「真似る」を由来とする説もある)という点で、とても大事なものです。あこがれを起こせない個人が増えるということは、そのまま、社会全体の意欲の減退、方向性の喪失、学ぶ思考力の脆弱化につながっていきます。

私たちは何にあこがれてもいいし、そのあこがれを目指すことで自分の力を引き出し、何になってもいい、という自由を手にしています。しかし、その自由の中で私たちはますます浮遊の度を強めています。

私がかつて企業で管理職をやっていたとき、部下に韓国人の男性がいました。彼はともかく20代の時間を惜しむように、会社内外でいろいろなことに挑戦をしていました。彼にいろいろと話を聞くと、そうした意欲は兵役中に芽生えたと言います。ご存じのとおり、韓国は徴兵制を敷いています。男性は一般的に20代のうちに約2年間の兵役義務につきます。

能力も知識も感情も形成盛りの20代に2年間の服務生活。ある種の自由が奪われた状態が個々の人間に与える影響は小さいはずがありません。彼は兵役中、むさぼるように読書をし、服務を終えたら何をしようこれをしようと想いが溢れたそうです。

◆自由を敬遠する底には怠惰や臆病がある
幸いにも日本には徴兵制はありません。自分の人生の時間は100%自分が自由に使えます。しかし逆に、そうした有り余る自由に対して、私たちは戸惑ったり、敬遠したり、負担に感じたりと、どうも具合がよくないのです。

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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