せっかく立派な評価基準を定め、多くの人が時間をかけて評価の検討・決定に参加し、しっかり運用しているのに、結果的には業績が低迷し、組織にも閉塞感が漂い始めるのでは、何をしているか分からない。
一方で最近、人事部は、ダイバーシティ(多様性)が重要だと認識しはじめた。性別や年齢や人種だけでなく、様々な面で異なる人達が集まり、多様な価値観や能力が揃っている状態を作ることによって、組織のパフォーマンスを高めようということだ。同じような価値観、似たような能力を持った人達が集まっているよりも、多様な人材がいる状態を作ったほうが多様化する顧客や社会に対して対応しやすいだろうし、成長に向けてイノベーションを起こすにも欠かせない要素であろうと、私も思う。だが、ちょっと考えてみれば、立派な評価基準を運用しようとしている人事部が、ダイバーシティは重要であり、多様な人材がいる状態を作り出したいと言うのは、おかしい。
論理的で立派な評価制度とその厳格運用は、能力を画一的なものにし、働きぶりを萎縮させる。ダイバーシティは、多様な価値観や能力を揃え、それを活かそうということだ。処遇に対する不満を解消したい、評価に対する公平性や納得性を高めようという意図は、よく分かる。しかし、論理的な評価制度の運用とダイバーシティとは、目指す方向が全く逆なのである。つまり、両方を追求するというのは矛盾している。人事部が取るべき方策は、ダイバーシティを否定し、望ましい人物像をあくまで従業員に求め続けるか、論理的で立派な評価制度をあきらめて、ダイバーシティの観点から各々の得意分野と独自のワークスタイルを個別に評価する仕組みに転換するか、どちらかである。
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2010.03.20
2015.12.13
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。