私たちは、日々遭遇する出来事や事実、体験によって自己がつくられていくと思っている。しかし実際自己をつくっているのは、出来事や事実をどうとらえ、どう心を構え、どう体験していくかを根っこで決めている「観念」である。降りかかってくる出来事を100%コントロールすることはできないが、観念をコントロールすることは可能である。
確かに、苦難自体が人を高めるというより、苦難を乗り越えようとするその過程で、人は強く、賢く、優しくなっていくのだと思います。
被災から立ち上がった人たちは、まぎれもなく、自分の内で強い観念を起こし、そこから再生の意志を奮い立たせた人たちです。私がテレビ報道から耳にしたのは、「この震災にも何か意味があるにちがいない」「ここから立ち直り、教訓を未来に伝えていくことが自分たちがやれる最大のことだ」といった勇気に満ちた声でした。こうした観念を起こすにはすさまじいエネルギーを要したでしょうが、この再生途上にある人の姿こそ高貴なのだと感じました。
観念は一様ではありません。感情的な思い込みから、無意識の思考習慣、思想的・宗教的な信念まで、さまざまな観念が一人の人間の内で、そして社会で、複雑な模様を渦巻いていきます。
あるものは安易に流れ込み感染を広げ、あるものは試練を経て獲得され静かに感化の波を起こし、あるものは悲観的で、傍観主義で、利己的で、あるものは楽観的で、挑戦主義で、利他的で、これらが四六時中せめぎ合いをし、勢力争いをします。そして、どんな観念が支配的になるかで、個人の生き方も社会の様相も決まる。
いずれにせよ、観念が人をつくり、個々の観念が社会をつくります。知識に肥えていても、観念に痩せているという人がいます。同様に、物質は豊かだが、観念の貧しい社会もあります。私たちは自身の内部に広がる無限の観念空間の開発にもっともっと目を向けるときにきていると思います。
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2009.10.27
2008.09.26
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。