人事部は、どのように変わるべきか。
人事部の優先課題は、長い間、人材の調達と管理であった。そして人材という、経営の最大コストとリスクをコントロールすることにおいて、相当に高度化した。有期雇用や短時間勤務の雇用、派遣などの方法で状況に合わせて弾力的に人材を調達し、雇用リスクの低減と人件費の圧縮を行えるようになった。また、なお改善余地があるとはいえ、残業時間の削減や休日・休暇の取得促進、女性や障害者、高齢者の雇用・活用、その他にも労働関連法や労働者のニーズを踏まえた人事管理は相当に進歩した。だが、人材の調達と管理はもはや最優先の課題とは言えなくなっている。
これからの人事部は、キャリア支援を最大のミッションにすべきだと思う。キャリアというと、最近は妙に軽い響きもあるが、充実した職業人生を送るためのサポートをするということだ。「キャリアは自己責任。自分の能力は自分で磨くものであり、会社に頼るなど甘えている。自分の人生は、自分の力で切り開くものだ。」という考え方もある。しかし、そのように自己研鑽を任せた結果として、窓際族が生まれたのであり、回りまわって窓際族の存在が経営を苦しくしているという事実を忘れてはならない。
ここで言うキャリア支援は、自分の意思で異動ができるような仕組みを設けたり、研修制度を充実させたりするような制度の整備を意味するものではない。それらはこれまでも多くの会社でなされてきたことであるが、ルールを作っただけで、後の利用・活用は本人任せとなっており、効果が限定的であるのは自覚のある人事部も多いだろう。キャリア支援には、個別性と戦略性が必要である。個別性とは、一人ひとりが異なる特性や意思を持っており、それを個別に汲み取って、配置や仕事内容や学ぶ機会に反映させることだ。戦略性とは、中長期の目標を定め、配置や仕事内容や学ぶ機会というプロセスを一貫したものとして位置づけることである。
評価も昇進・昇格も、人事異動も研修も、キャリア構築という大目的の下に位置づけて実行されるように変えてはどうか。評価制度やその運用は、単に給与を決めるためのものではなく、本人が目指しているキャリアに対する実現度合いを測り、その変更・修正を促すようにする。また、会社や現場の事情だけで異動を行うのではなく、本人が目指しているキャリアの実現を支援するという観点を常に持って行うようにする。研修も、階層や職種による画一的な集合研修ではなく、本人が目指すキャリアに応じて、もっと自由度や選択性が高いものにする。就業ルールや休暇制度、働き方の見直しも、あってよいと思う。
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2012.05.01
2013.04.21
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。