就職が厳しい理由は、企業の人件費の支払い余力の乏しさであり、その原因は、業績の低迷と人件費の高止まりである。そうなった責任は、どこにあるのかを考えてみたい。
新卒の就職難は、基本的には求人数の伸び悩み、企業が雇用者数を増やせない状況に陥っていることにその原因がある。企業からは、「採用レベルに達しない学生が多いからだ」という声も聞こえてくるが、それはこれまでも景気低迷期において企業が採用数を絞るときには常に出ていた声で、採用数を絞るために基準を厳しくすれば、それに達しない学生が増えるのは当然だ。そもそも、採用基準を厳しくしなければならないのは、企業が雇用を増やした分の人件費を払える状況にないからである。だから、新卒の就職難を解消していくためには、企業の人件費の支払い余力を大きくすることが最も重要な課題となる。
企業の人件費支払い余力を大きくする方法は、業績の伸長か、在籍している人達の人件費等を下げるか、どちらかしかない。まとめると、就職が厳しい理由は、人件費の支払い余力の乏しさであり、その原因は、業績の低迷と人件費の高止まりであるということだ。そして、このようになった責任について考えれば、業績の低迷は政治や行政の体たらくが影響しているといはいえ、それを除けば、経営であり、幹部・管理職の能力の問題とも言えるだろう。人件費の高止まりは、硬直的な労働法の問題もあるとはいえ、それを除けば、経営や幹部・管理職自身の報酬の高さの問題だ。つまりは、経営・幹部・管理職における能力と報酬のミスマッチが就職難の本質なのである。
このような認識に立てば、学生に対する就職支援を税金を使って行うのは適切ではない。企業の人件費の支払い余力が増えない限り、就職できる学生は増えないので、効果がないからだ。就職支援によって就職できた学生がいたとしても、その人の分、就職できなくなった学生が生まれるわけで、そのような支援は大学や民間に任せればよい。税金を使ってやるべきことは、経営・幹部・管理職における能力と報酬のミスマッチを解消することである。
解消法の一つは、経営・幹部・管理職のレベルアップだ。少しでも、報酬に見合う能力に近づけるようにすることである。経営管理、マネジメント、コミュニケーション、マーケティングなどでもよいし、企画や調整や役割行動や実行の力といったものでもよいだろうし、もっと実務的なスキルでもよいと思うが、企業の上位階層に学ぶ気のない人があまりにも多い。新規性の高いもの、疎い分野、苦手分野に距離を置いたままの人達が多すぎる。実際には、このような人達の成長にはもはや期待しないと言う経営者も多いが、税金を使うのなら、この階層のレベルアップを支援し、企業の成長による雇用の増加を目指すべきである。
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。