誰しも給料は多いにこしたことはない。しかし年収の多寡によって現職・現勤務会社のよしあしを判断することはできない。仕事を成し遂げたことによって得られる報酬には、お金以外にさまざまなものがある
◆目に見えない報酬
さて、以上の報酬は、自分の外側にあって目に見えやすいものです。しかし、報酬には目に見えにくい、自分の内面に蓄積されるものもあります。
【5:能力習得・成長感・自信】
仕事は「学習の場」でもあります。ひとつの仕事を達成するには、実に多くのことを学ばなくてはなりませんが、達成の後には能力を体得した自分ができあがります。また、よい仕事をして自分を振り返ると「ああ、大人になったな」とか「一皮むけたな」といった精神的成長を感じることができます。
その仕事が困難であればあるほど、充実感や自信も大きくなる。こうした気持ちに値段がつけられるわけではありませんが、大変貴重なものです。会社とは、給料をもらいながらこうした能力と成長を身につけられるわけですから、実にありがたい場所なのかもしれません。
【6:安心感・深い休息・希望・思い出】
人はこの世で何もしていないと不安になる。人は、社会と何らかの形でつながり、帰属し、貢献をしたいと願うものです。米国の心理学者エイブラハム・マズローが「社会的欲求」という言葉で表現したとおりです。仕事をする―――たとえそれがよい成果をもたらしても、もたらさなくても、人は、仕事をすること自体で安心感を得ることができます。
また、よい仕事をした後の休息は心地よいものです。そして、よい仕事は未来には希望を与え、過去には思い出を残してくれます。
【7:機会】
さて、仕事の報酬として6つを挙げましたが、忘れてはならない報酬がもう1つあります。―――それは「次の仕事の機会」です。
次の仕事の機会という報酬は、上の2~6番めの報酬(つまり金銭を除く報酬)が組み合わさって生まれ出てくるものです。
機会は非常に大事です。なぜなら、次の仕事を得れば、またそこからさまざまな報酬が得られるからです。そうしてまた、次の機会が得られる……。つまり、機会という報酬は、未来の自分をつくってくれる拡大再生産回路の“元手”あるいは“種”になるものです。「よい仕事」は、次の「よい仕事」を生み出す仕組みを本質的に内在しています。
報酬としてのお金は生活維持のためには大事です。しかし、金のみあっても能力や成長、人脈を“買う”ことはできませんし、ましてや次のよい仕事機会を買うこともできません。そうした意味で、金は1回きりのものです。
◆年収額を追うと「わるい回路」に入る
「年収アップの転職を実現する!」―――人材紹介会社の広告コピーには、こうした文字がよく目に付きます。給料がなかなか上がっていかない時代にあって、確かに年収アップは魅惑的です。
ですが、現職を「給料が安いからダメだ」とか、「年収を上げるためにここいらで転職でも」とか、そういった金銭的な単一尺度で、長く付き合う仕事と会社を評価するのは賢明ではありません。
もし、あなたが金銭報酬的のみにほだされて、ある職を選び、その職を実際行なってみた結果、面白みもなく、自分に何の能力向上もさせず、ましてや次の挑戦機会も与えなかったとしたら、それは「わるい仕事」です。「わるい仕事」は労役であり、それこそ、その我慢料として、報酬はせめていい金額をもらわねばやってられない、という「わるい回路」に陥ります。
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
関連記事
2009.10.27
2008.09.26
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。